略歴: 編集者を経てライターに。映画、ドラマ、アニメなどについて各メディアに寄稿。「文春野球」中日ドラゴンズ監督を務める。
近況: YouTube「ダブルダイナマイトのおしゃべり映画館2022」をほぼ週1回のペースで更新中です。
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バービー人形の世界「バービーワールド」からバービーとボーイフレンドのケンが人間の世界にやってきて……という話かと思ったら、そこからツイストが効いているのが面白い。バービー人形が持たされている“女性礼賛”のイメージや「ピンク推し」についても考えがめぐらされている。“弱者男性”が憧れる男社会の俗悪さの描き方もあくまでポップ。女性は頑張っても頑張らなくてもいい、だけど男社会には安易に取り込まれないで! とメッセージを投げかけ、丁寧に「女性の解放」について考えられた快作。全年齢向けなので、夏休みはぜひ母と娘で観に行ってほしい。
家族なし、恋人なし、友人なし、非正規雇用、さらに推しのアイドルが結婚して絶望した30男、その名も非理谷充(ひりや・みつる)が超能力者になって大暴れ! しんのすけとサイキックバトルを繰り広げる! 社会から取り残され、未来に絶望してモンスターと化した弱者男性とどう対峙するか。本作は『ジョーカー』に対する『クレヨンしんちゃん』からのアンサーに見える。「手巻き寿司」が家族の団らんの象徴として描かれている一方、キーワードが「家族」じゃないのも良かった。詰めの甘さも感じたけど、終盤のたたみかけは泣けたし、サンボマスターの主題歌でまた泣いた。雛形あきこや小宮悦子みたいに、あの人に登場してもらいたかったなぁ。
人類の歴史上、こんなに非道で残酷なボクシングが本当にあったのかと愕然とする。アウシュヴィッツの収容所の中で行われた賭けボクシング。殴り合うのはユダヤ人同士。金を賭けるのはナチスの将校たち。負けたほうはその場で射殺。そんな地獄をくぐり抜けてきた男の実話。やはり実話をもとにした『アウシュヴィッツのチャンピオン』と同じシチュエーションだが、こちらは彼が戦後どのような人たちと出会い、どのように自分を解放することができたかを描く。ホロコーストの時代から壮年期までをひとりで演じたベン・フォスターがすさまじい。ナチスの所業と戦争の愚かさを絶対に忘れないというハリウッドの映画人たちの気概と執念を感じる一作。
結婚に失敗し、人生に疲れてしまった女性が、自分を変えるために数日間にわたるハードなハイキングに挑戦するというお話(一応、ラブコメ)。大自然の中で、個性豊かな参加者の面々と語り合ったり、一緒にトラブルを乗り越えたりしているうちに、いろいろなことが好転していく。たしかにこういうセラピーがありそう。風景もきれいで、アウトドア感もほどよく、登場人物たちとの会話も軽妙なので、リアリティ番組を見ているような気分にも。大切なのは大自然の中で都会のストレスから離れることと、チームのために貢献すること、そして自分を見つめ直すこと。最初から最後までイヤな人が出てこないので、イヤな人に疲れたときに観るのがおすすめ。
フランス産の人気アニメを美麗な3DCGでリブート。女男バディのティーンエイジ・スーパーヒーロー、テントウムシがモチーフのレディバグと猫がモチーフのシャノワールの活躍を描く。日本のアニメからインスパイアされているというが、主人公二人の恋愛要素がメインなのが新味。男子が女子を助手(サイドキック)扱いしようとするけど、女子の力を認めて「僕がサイドキックだ」と言うと、女子が「パートナーよ」と言うくだりが良い。アクションのカタルシスは少々弱いが、それより描きたいものがあるということだろう。テレビシリーズはすでにシーズン4まで配信されているが、イチからお話が始まっているので、まずはこちらからでOK。