略歴: 編集者を経てライターに。映画、ドラマ、アニメなどについて各メディアに寄稿。「文春野球」中日ドラゴンズ監督を務める。
近況: YouTube「ダブルダイナマイトのおしゃべり映画館2022」をほぼ週1回のペースで更新中です。
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宮崎駿の集大成。『未来少年コナン』『カリオストロの城』『ナウシカ』『ラピュタ』『トトロ』『魔女の宅急便』『紅の豚』『もののけ姫』『千と千尋』『ハウル』『ポニョ』『風立ちぬ』の要素がごちゃまぜに詰め込まれていて、同時代的な表現はまったくない。だけど、森があって、海があって、波があって、火があって、石があって、鳥がいて、変ないきものもいる。おじいちゃんが横文字を借りず、アバターにも頼らず、自分の好きなものを組み合わせ、自分の生い立ちと重ね合わせながら、孫、ひ孫世代に向けて、幻想の世界にとどまるな、ろくでもない世の中を良くするのはお前たちなんだよ、と語りかける冒険ファンタジー。いいものを見た。
封建的かつ排他的な近未来の王国を舞台に、濡れ衣を着せられた騎士とアナーキーなモンスター娘・ニモーナがタッグを組み、異物を排除することで秩序を守ろうとする真犯人の陰謀に立ち向かうキッズ向けアニメ。痛快さの一方で、マイノリティへの差別と蔑視が溢れていて胸が痛くなる場面も少なくない。ニモーナの孤独と怒りが爆発する終盤は『ゴジラ』も参照しているはず。エンディングの自己犠牲的な展開への解釈はそれぞれだと思うが、2023年の必見作であるのは間違いない。どうすればニモーナはみんなと楽しく暮らすことができたのか、そのためには何が変わらなければいけないのか。観終わった後、親子で話し合ってみるのもいいと思う。
ビジュアルもストーリーも圧巻。そんな中で描かれているのは、ヒーローとヒロインの圧倒的な孤独と寂寥感だ。ティーンエイジャーたちはあれもこれも諦めたくないのに、大人たちはみんな運命に逆らおうとしない。ティーンエイジャーたちはあれもこれも必死に頑張っているのに、親たちは自分の都合ばかりで理解しようとしない。そんな彼らの孤独と寂寥感は、今の世の中で未来を切り開こうとする若者たちに重ねられているように思う。だから彼らが懸命になったり、誰かがサポートしようと立ち上がったりすると、無性に泣けてくるのだ。パーティームービーだと思って大量にポップコーンを買い込んでいくと、意外と食べるタイミングに困る作品。
ぽっかりと空いた巨大な穴のような中心を抱えた地方都市を舞台に、とある事件を起こした子どもたち、母親、教師、学校の人々などを複数の視点で描く。同調圧力、いじめ、悪意のある噂、事なかれ主義、謝罪になっていない謝罪など、現代の日本を象徴するような煮詰まった空気の中で、「普通」とか「幸せ」とか「家族」とかにすり潰されようとしている人たちの姿に胸が痛くなる。これはたぶん、属性の話ではなくて、魂の話なんだと思う。「怪物」とは誰か、というより、「怪物」とは何か、を考えさせる映画。晩年、子どもたちを応援する活動を続けていた坂本龍一の音楽が、「行き止まり」の先へ駆けていく彼らを後押ししているように感じた。
人体改造されたティーンエイジ殺人マシーンたちの血で血を洗う戦いを描いたバイオレンスアクション『The Witch/魔女』の続編。今回は物語の規模も殺人マシーンの数もグッとアップ。『ウ・ヨンウ弁護士は天才肌』で世界的な人気者になったパク・ウンビンが重要な役で出演しているのもスケールアップを感じさせる。前作のキム・ダミ(『梨泰院クラス』のチョ・イソ役)同様、すさまじい倍率のオーディションを勝ち抜いたシン・シアは大変魅力的。ワイヤーとCGをバリバリ使ったマーベル映画ばりのハイパーなアクションと刃物でサクサク刺して血がビュービュー噴き出る韓国バイオレンスの融合を堪能しよう。事前に前作は観ておくこと。