略歴: 1971年、東京都出身。大学在学中、クイズ番組「カルトQ」(B級映画の回)で優勝。その後、バラエティ番組制作、「映画秘宝(洋泉社)」編集部員を経て、フリーとなる。現在は映画評論家として、映画誌・情報誌・ウェブ、劇場プログラムなどに寄稿。また、香港の地元紙「香港ポスト」では20年以上に渡り、カルチャー・コラムを連載するほか、ライターとしても多岐に渡って活動中。
近況: 『インファナル・アフェア4K 3部作』『search #サーチ2』『縁路はるばる』『探偵マリコの生涯で一番悲惨な日』『恋のいばら』『この小さな手』『香港怪奇物語 歪んだ三つの空間』(公式HP)『呪呪呪/死者をあやつるもの』(公式HP)などの劇場パンフにコラム・インタビューを寄稿。そのほか、キネマ旬報ムック「細田守とスタジオ地図の10年」にて細田守監督×ポン・ジュノ監督、「CREA WEB」にてアイナジエンドさん、倉悠貴さん、Evan Callさん、「GetNavi web」にて中井友望さん、武田玲奈さん、北香那さん、浅川梨奈さん、三浦翔平さん、森山みつきさんなどのインタビュー記事も掲載中。
『あなたの微笑み』の胡散臭い社長から一転、尚玄がリム・カーワイ監督の分身といえる“シネマドリフター”な映画監督を演じるロードムービー。ロマンチックなSFラブストーリーであり、ヨハン・ヨハンソン監督の『最後にして最初の人類』に登場した戦争記念碑「スポメニック」の存在も象徴的であることから、“リム監督なりの『2046』や『コロンバス』”といった趣だ。コロナ禍と戦争という背景から垣間見える世界観の下、バルカン半島三部作でもっとも観客の想像力に委ねる表現が多く、観る人を選ぶ仕上がりに。個人的には今後『COME & GO カム・アンド・ゴー』の先にあるエンタメを意識した作品作りを期待したい。
30年前、『タクシーハンター』で悪質なタクシー運転手を血祭りにあげていたアンソニー・ウォンが、問題の多いタクシー運転手を演じる。そんなマニア心をくすぐる設定ではあるが、作品のテイストでいえば、円熟味を増したウォンとフィリピン人家政婦の交流を描いた『淪落の人』系。いわゆる異文化コミュニケーションを扱った人間ドラマであり、今度の相手はパキスタン難民の少年。だが、少年の言動に感情移入しにくいほか、ラストなど、脚本の詰めの甘さが目立つのは否めない。私生活で香港を離れる選択を取ったウォンが、中国から香港に密入境した男を演じる意義は大きく、怪しげでノワールな雰囲気に、★おまけ。
『女王陛下のお気に入り』でメジャースタジオに魂を売った感もあったヨルゴス・ランティモス監督だったが、本作を撮るためのステップに過ぎなかったと捉えると、なかなか興味深い。一言でいえば、スチームパンクな世界観で展開される『フランケンシュタイン』×『エマニエル夫人』。プロデューサーを兼任したエマ・ストーンが身体張りまくる濃厚すぎるほどR18+のSF冒険譚であり、格差社会の描写やヒロインに翻弄される男たちの哀れな姿など、随所にみられる『メトロポリス』オマージュがピリリと効いてくる。計算された映像処理など、アートの極みとしての見応えもあり、『バービー』にハマれなかった人ほど、ハマる予感大!
大谷健太郎~今泉力哉監督の系譜といえる“男女のどうでもいい会話劇”を撮らせたら、今いちばん面白い木村聡志監督の最新作にして、最高傑作。登場人物の片思いのベクトルが決して交わらない群像劇としての面白さは、タイトルの元ネタと取れる『恋する惑星』に通じるものがあるが、『愛なのに』超えの笑いを取る中島歩を始め、みんな絶妙にズレているため、どこか愛らしい。おしゃれ映画に見えつつ、綱啓永演じるモーのあだ名の由来が牛田モーだったり、長嶋茂雄の「ん~、どうでしょう?」な会話が繰り返されたり、昭和世代にツボる小ネタも少なくない。そして、コメディエンヌとして大化けした莉子は一見の価値アリ。
「silent」フォロワーにも見える“静寂の恋物語”だが、久石譲の起用も含め、内田英治監督がやりたかったのは、明らかに『あの夏、いちばん静かな海。』。山田涼介と浜辺美波が歩くシーンは、濡れた仔犬の表情を魅せる山田と並ぶ、見せ場のひとつだ。ブルーカラーな主人公の格闘家設定など、『きみの瞳が問いかけている』との共通項も多いが、三木孝浩監督との力量の差は歴然。内田監督が好む相変わらずリアリティに欠けるヤンキー&半グレ描写もあるが、三角関係になる野村周平の浮世離れした設定が厳しいというか、観方次第でミスキャストとも取れてしまう。とりあえず、Mrs. GREEN APPLEの主題歌で逃げ切った感はアリ。