略歴: 1971年、東京都出身。大学在学中、クイズ番組「カルトQ」(B級映画の回)で優勝。その後、バラエティ番組制作、「映画秘宝(洋泉社)」編集部員を経て、フリーとなる。現在は映画評論家として、映画誌・情報誌・ウェブ、劇場プログラムなどに寄稿。また、香港の地元紙「香港ポスト」では20年以上に渡り、カルチャー・コラムを連載するほか、ライターとしても多岐に渡って活動中。
近況: 『インファナル・アフェア4K 3部作』『search #サーチ2』『縁路はるばる』『探偵マリコの生涯で一番悲惨な日』『恋のいばら』『この小さな手』『香港怪奇物語 歪んだ三つの空間』(公式HP)『呪呪呪/死者をあやつるもの』(公式HP)などの劇場パンフにコラム・インタビューを寄稿。そのほか、キネマ旬報ムック「細田守とスタジオ地図の10年」にて細田守監督×ポン・ジュノ監督、「CREA WEB」にてアイナジエンドさん、倉悠貴さん、Evan Callさん、「GetNavi web」にて中井友望さん、武田玲奈さん、北香那さん、浅川梨奈さん、三浦翔平さん、森山みつきさんなどのインタビュー記事も掲載中。
いわゆる“生きづらさ”を描いた一作だが、お互いを理解することにより、同志のような感情が芽生え、認め合うまでを丁寧に描写。朝ドラ「カムカムエヴリバディ」で夫婦役を演じた松村北斗と上白石萌音が微妙な距離感の同僚を演じるあたり、キャスティングの勝利ともいえるが、そこに光石研や渋川清彦らがガッチリ固める。それにしても瀬尾まいこのハートウォーミングな原作とドライな印象が強い三宅唱監督の相性がここまで良かったとは! 『ケイコ 目を澄ませて』に続く、月永雄太による撮影と16mmフィルムが醸し出す空気感は、映画の醍醐味を味わわせてくれ、三宅監督は確実に新たなフェーズに入ったといえる。
ドラマでは定番の若女将修業に加え、タップダンスのスポ根要素をプラス。とにかく登場人物が多いため、わちゃわちゃしたお祭りムードはあるものの、森崎ウィン演じる妙なテンションの観光プランナーなど、どこか収集つかなくなってる感アリ。それなら個性豊かな女将メンバーを掘り下げた方が良かったとは思うが、そんな弱点でさえ、今や引っ張りダコな小芝風花のど根性キャラとコメディエンヌっぷりがフォロー。見せ場となるタップは、北野武監督『座頭市』の振付で知られるHideboHが指導。それだけに、終盤に披露されるデッキブラシや和傘を使った和装タップは圧巻の迫力で、しっかりカタルシスを感じさせてくれる。
かなり設定が似ているニコラス・ケイジの『ウィリーズ・ワンダーランド』との差別化を図ったか、物語の軸となるのは、失踪した弟を追い続ける主人公が抱える『ブラック・フォン』的なトラウマや家族の話。そのため、『チャイルド・プレイ』『M3GAN/ミーガン』的なブキミ可愛いキャラが大暴れする王道ホラーを期待すると、かなり拍子抜けするのは否めない。要はアニマトロニクスによる巨大マスコットの造形や店内の美術を生かしきれておらず、それはいじわる叔母さん役のメアリー・スチュアート・マスターソンの使い方も同じ。『ホーム・アローン』な要素もあるだけに、やはりクリス・コロンバス監督の降板は悔やまれるところだ。
ある過去を持つ幼馴染の3人の男が、1つの殺人事件を通して四半世紀振りに再会を果たす。そのうちの一人が刑事だったり、あの過去が性的暴力にまつわるものだったりと、かなり“日本版『ミスティック・リバー』”を意識した作りなのは否定できない。登場するだけで締まるベテラン陣に加え、3人の同世代キャストによる化学反応も興味深いなか、石田卓也の存在感を久々に痛感。地方都市を舞台にした重厚な人間ドラマとしてはなかなか楽しめるが、オリジナルのミステリとして見た場合、やはり弱い。本作がデビュー作となった齊藤勇起監督の演出には職人気質を感じるので、今度は手堅い原作モノで観てみたいものだ。
なんたって、『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』のクレイグ・ギレスピー監督作。ポール・ダノ演じるYouTuber(今回も怪演!)と名もなき個人投資家たちによる“ウォール街をぶっつぶせ!”な下剋上を描いており、難解な専門用語も飛び出すが、同じく実際にあった“空売り”騒動を描いた『マネー・ショート 華麗なる大逆転』のように観客を置いてきぼりにしない演出がミソ。SNSで繋がった「電車男」的な投資家たちのエピソードなど、コメディとシリアスのバランスも見事ななか、意外な役どころで名バイプレイヤーが登場。思わずニヤリとしてしまうなか、閉塞感たっぷりステイホームなコロナ禍映画としても見応えアリ。