略歴: 映画評論家/クリエイティブディレクター●ニッポン放送「八木亜希子LOVE&MELODY」出演●映画.com、シネマトゥデイ、FLIX●「PREMIERE」「STARLOG」等で執筆・執筆、「Dramatic!」編集長、海外TVシリーズ「GALACTICA/ギャラクティカ」DVD企画制作●著書: 「いつかギラギラする日 角川春樹の映画革命」「新潮新書 スター・ウォーズ学」●映像制作: WOWOW「ノンフィクションW 撮影監督ハリー三村のヒロシマ」企画・構成・取材で国際エミー賞(芸術番組部門)、ギャラクシー賞(奨励賞)、民放連最優秀賞(テレビ教養番組部門)受賞
近況: ●「シン・ウルトラマン」劇場パンフ執筆●ほぼ日の學校「ほぼ初めての人のためのウルトラマン学」講師●「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」劇場パンフ取材執筆●特別版プログラム「るろうに剣心 X EDITION」取材執筆●「ULTRAMAN ARCHIVES」クリエイティブディレクター●「TSUBURAYA IMAGINATION」編集執筆
三部作というよりも、あれから2年後を描く後日譚。キャラクターが増え、演出的に弛緩した面は否めない。しかし恋愛エピソードに傾きすぎず、単に勝利を目指すのでもなく、精神的な高みに向かって上昇していく様が美しい。日本的な意匠を凝らし、撮影技術と音楽を駆使して心地よい画面を設計している。そして何より、90年代生まれの俳優たちの瑞々しい煌めきをカメラに収めたドキュメンタリー的要素が秀でており、数あるマンガ原作ものと一線を画す。とりわけ、猪突猛進タイプのヒロインが経験を重ね、人間関係の機微に触れ、道を究めようと邁進する姿は、アイドル的少女から本格女優へと目覚ましい成長を遂げた広瀬すずの軌跡に重なり合う。
死後の世界をモチーフとしたピクサーの意欲作は、マリーゴールドを基調に色鮮やかな祝祭空間と耳に残るラテン音楽で目と耳を楽しませ、王道のプロット運びで感情を揺さぶる。ここでは、人は2度死ぬ。誰にも思い出されなくなったときこそ、真の消滅が訪れるという世界観が切なくも現実的。アイロニカルな人生の真実を知り、信賞必罰を描く展開も豊か。人生の入口に立つ少年と、生の痕跡を伝えたいと願う出口を経た先達のコントラスト。自我とは何か。なぜ生きるのか。悩める若者は、御先祖様に背中をそっと押され、自らの道を確信して前へ進む。連綿と続く家族の絆こそ生きる力の源泉だとエモーショナルに謳い上げる名作だ。
マーケティング至上主義からは生まれなかった、欧米カルチャー追従型ではない画期的なスーパーヒーロー映画だ。主要キャストとスタッフは黒人で占められる。白人からの侵略と収奪に苦悩した歴史を踏まえ、新世代アフリカ系アメリカ人の神話に昇華させた。悪は武力闘争をも辞さない男。自国ファーストで土着文化を守るべきか、世界と交わり貢献していくべきかというせめぎ合いは批評性に富んでいる。プロダクションデザイナーは『ムーンライト』のハンナ・ビークラー。オリジナリティ溢れる色彩、デザイン、そして独自のサウンドが心身を刺激する。民族の可能性と誇りを全開させた本作の成功は、ヒーロー映画のメルクマールになるに違いない。
「eスポーツ」という名称で脚光を浴びるプロゲーマーの世界を掘り下げたドキュメンタリーの秀作だ。巨額の賞金を掲げる構造への認識が深まるだけではない。日本、台湾、フランスの伝説のゲーマーに光を当て、勝敗を競い合う彼らの姿に肉薄するカメラが、生き様のドラマへ導入する。ナレーションはなく、ただ彼らが吐露する言葉と表情によって、ゲームに懸ける青春が露わになるのだ。世間的には“遊び”と見做されるゲームで飯を食うことへの葛藤、結婚を逡巡するゲーマーのカップル…長期間の取材と被写体との距離が可能にする人間味あふれる瞬間の数々に、思わず親近感を抱いてしまう。プロを目指す若者にとっても、重要な作品となるだろう。
独自の世界観をもつギリシャの鬼才による、ジャンルに収まらない不穏で不可解な不条理劇。ギリシャ悲劇をモチーフに報復の呪いが迫り来るスリラーだ。極限下の人間の悲喜劇を監督は追求している。鹿殺しと言えば『ディア・ハンター』だが、クライマックスに登場するのは“変則ロシアン・ルーレット”ともいえよう。カンヌは脚本賞を与えたが、撮影手法にこそ注目したい。広角レンズの多用、シンメトリーな構図、滑らかな移動、緩慢なズーミング…無機質な画面に歪んだ音が被さり緊張が張り詰める――明らかにキューブリックのDNA。彷徨する亭主を冷ややかに見つめる妻に、遺作のミューズ=ニコール・キッドマンを起用したのも効果的だ。