略歴: 映画評論家/クリエイティブディレクター●ニッポン放送「八木亜希子LOVE&MELODY」出演●映画.com、シネマトゥデイ、FLIX●「PREMIERE」「STARLOG」等で執筆・執筆、「Dramatic!」編集長、海外TVシリーズ「GALACTICA/ギャラクティカ」DVD企画制作●著書: 「いつかギラギラする日 角川春樹の映画革命」「新潮新書 スター・ウォーズ学」●映像制作: WOWOW「ノンフィクションW 撮影監督ハリー三村のヒロシマ」企画・構成・取材で国際エミー賞(芸術番組部門)、ギャラクシー賞(奨励賞)、民放連最優秀賞(テレビ教養番組部門)受賞
近況: ●「シン・ウルトラマン」劇場パンフ執筆●ほぼ日の學校「ほぼ初めての人のためのウルトラマン学」講師●「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」劇場パンフ取材執筆●特別版プログラム「るろうに剣心 X EDITION」取材執筆●「ULTRAMAN ARCHIVES」クリエイティブディレクター●「TSUBURAYA IMAGINATION」編集執筆
ボードゲームが現実化する20年以上前の発想を、VRがトレンドの昨今、RPGゲーム世界にアバターとして入り込む物語に置き換え、時代に適った正しい再創造。おまけに、80年代風青春ドラマというトレンドも付け加え、まずプロデュース力でリメイクを成功に導いている。理想の姿をしたアバターとのギャップが可笑しみをもたらし、とりわけ本人の対極キャラとしての、ドウェイン・ジョンソンやジャック・ブラックの意外性ある起用法がアクセントになっている。3つの生命を持って、危険な荒野を生き抜くデジタルキッズたちの通過儀礼という物語構造も明快だ。生きづらい現実を克服するゲーム世代の成長譚として、長く愛されることだろう。
これを「映画」と呼ぶのは酷だ。元国民的アイドル3人が個々に再始動するにあたり、広告業界主導で企画された、コンテクストマーケティングに基づく“ストーリー性のあるプロモーションフィルム”の集積と呼ぶのが正確なところ。逃走・彷徨・喪失、そして再生の祝祭。隠喩だらけのシュールな物語に包んだものの、コンセプトの骨組みはあからさま。粗野でありながらリリカルな太田光作品が頭ひとつ抜け、企画自体への批評精神も感じさせ、最も映画を志向している。新しい地図を手にしても、方角はおろか読み方すらままならない草彅剛の姿こそが路頭に迷う現在そのものであり、不安と希望が入り混じる彼らの旅立ちが象徴的に視覚化された瞬間だ。
狂騒の70~80年代を漂流した伝説的なサブカル雑誌編集者の生き様。客観視した「熱」ではなく、憧れを手掛かりとした「郷愁」でもない。挫折と成功を繰り返し、何度でも立ち上がる、いかがわしくも虚無的な生が、まざまざと甦る。猥雑な街の雑居ビルの編集部から想起する記憶が濃厚な世代としては、他人事ではない生々しさ。爆発死した母の記憶が原点としてインサートされる構成によって“文学的”にさえ昇華された。実存感のある主人公・柄本佑はもとより、彼が思慕の念を抱く女性陣の演技が絶妙だ。妻=前田敦子、愛人=三浦透子、母=尾野真千子。次第に狂気の表情を見せるその様は、自由な男の陰に封じ込められた女性の叫びのようだ。
もはや辻一弘の特殊メイクあってこそという視点で観てしまいがちだが、G・オールドマン渾身の演技は映画的マジックも忘れさせるほど。愛すべき変わり者だったチャーチルが、ヒトラーの脅威に怯む者の多い状況下、貫いた信念の描き込みは圧倒的。政治家が信頼を得るために大切なもの、それは言葉のもつ力だ。絶望の淵に立ち判断に苦悩し、彼は街へ出て地下鉄で民衆の声に耳を傾ける。名演説が人々の思いに裏打ちされたものであることを示す名場面だ。原題は「Darkest Hour(最も暗い時)」。発する言葉が軽く人間性に疑念を抱かれる為政者が跋扈する今、暗澹たる時代のリーダーシップのあり方を示し、光明をもたらす。
歴史の検証ではない。ジャーナリズムを軽んじるトランプ政権に向け、横暴な権力が敗れた過去を通して繰り出す鋭いカウンターだ。映画製作に要すプロセスを度外視し、その速度はまさにツイート的。国民を欺いてきたベトナム戦争の真実。その文書を入手したメディアの役割をめぐり、新聞記者がリスクを冒し善意が積み重ねられていく様が、実にスリリング。政府高官との友情と正義の狭間で揺れるメリル・ストリープ扮する新聞社社主。彼女の葛藤と決断こそが静かなるスペクタクルだ。それにしても7000頁にも及ぶ不都合な公文書を保管していた米国には脱帽するしかない。改竄や廃棄の体質から糺さねばならない国の民主主義への危機感が募る。