略歴: 映画評論家/クリエイティブディレクター●ニッポン放送「八木亜希子LOVE&MELODY」出演●映画.com、シネマトゥデイ、FLIX●「PREMIERE」「STARLOG」等で執筆・執筆、「Dramatic!」編集長、海外TVシリーズ「GALACTICA/ギャラクティカ」DVD企画制作●著書: 「いつかギラギラする日 角川春樹の映画革命」「新潮新書 スター・ウォーズ学」●映像制作: WOWOW「ノンフィクションW 撮影監督ハリー三村のヒロシマ」企画・構成・取材で国際エミー賞(芸術番組部門)、ギャラクシー賞(奨励賞)、民放連最優秀賞(テレビ教養番組部門)受賞
近況: ●「シン・ウルトラマン」劇場パンフ執筆●ほぼ日の學校「ほぼ初めての人のためのウルトラマン学」講師●「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」劇場パンフ取材執筆●特別版プログラム「るろうに剣心 X EDITION」取材執筆●「ULTRAMAN ARCHIVES」クリエイティブディレクター●「TSUBURAYA IMAGINATION」編集執筆
人類が抱える人口過密、環境汚染、経済格差…といった問題を一挙に解決する人間縮小化計画。ハリウッド映画を観慣れた脳は、もっと冒険を!と物足りなさを感じるかもしれない。SFアプローチは、視覚的なフックを用意して人間の悲哀をより深化させるためのもの。縮小化に臨む段になって妻の裏切りに遭う主人公。アレクサンダー・ペイン作品における計画は常に上手く行かず、主人公はおろおろし始める。マット・デイモンの陥る哀れで滑稽な状況こそ本作の真骨頂。希望が叶う楽園などなく、人は身近な人間関係に希望を見出し、ささやかな幸福を掴むしかない。日本の高度成長期の傑作『ウルトラQ』の一篇「1/8計画」を推し進めた悲喜劇だ。
いかに興奮と感動を与えようかという野心とは無縁で、87歳の名匠は実にさらさらと撮っている。青年達のありきたりな、だが運命的な生い立ちと、半ば弛緩したパリ観光の後に訪れる、偶然居合わせてしまった無差別テロ。当事者3人が事件を自ら演ずる実験的スタイルは、過度にヒロイックになりがちな物語を中和する。イーストウッドの過去作で対置して語るべきは『父親たちの星条旗』だろう。戦場における“虚飾のヒーロー”とは対照的な、今日における“現実の英雄的行動”。素人が再現する素朴さが重要な意味をもつ。それは、日常的に恐怖に遭遇する危険性を孕む時代のリアリティを高め、観る者すべてにその瞬間への心構えを問いかけている。
一昔前なら密かに語り伝えられた
淋しげな女性と魚人間の繊細な愛
いまデル・トロの感性に光が射す
せちがらく排他的な世界の片隅で
生きづらさを抱える者と響き合い
不寛容な時代に見る純粋無垢な夢
種族も性差も美醜も超えた幻想譚
理解し合えば他者は消えてしまう
たちまち融け合うこころとこころ
ときめいて舞いあがり泳ぎまわり
異形がイケメンに変わることなく
おのずと重ね合うからだとからだ
色彩は溢れキャメラは流麗に踊り
たゆたう愛の形に生きる力が甦り
映画の持つ力を信じさせてくれる
6年がかりで再現されためくるめく色彩感覚の長安の街は、極楽浄土のようで映画美術を超えた。日中合作とはいえ、徳間康快が支援し続けた時代は遥か昔、これは中国の国力を示す一大事業だ。かつて権力に牙をむいたチェン・カイコーは、市場経済の中で大資本を動かす幻想映画の巨匠の地位を上り詰める。邦題はミスリードする。高僧が奇跡を起こすスペクタクルとは無縁で重厚感はなく、空海は怪事件を追う名探偵にすぎない。原題は『妖猫伝』。永田雅一率いる大映の遺伝子を継承するKADOKAWAとしては、初期ヒット作「化け猫映画」に回帰した。『怪猫長安御殿』や『名探偵クーカイ/楊貴妃の死を暴け!』の方が動員は伸びたかもしれない。
高度成長期に、銀幕の中から現実世界にやって来た憧れのヒロイン。モノクロームな彼女と青年とのぎこちない恋が、半ば回想的な劇中劇として進行する。設定や約束事のディテールをもっと詰めるべき…と、かつて脚本を書いたという病床の老人にツッコミを入れながら観ていると、名作映画のサンプリングで構成されたツギハギだらけの物語の様相は徐々に変化する。これは、往年の映画への愛を語るようでいて、実はファンタジーが蔓延した現代のメタフィクションだ。生身の女性を選ぶことなく、虚構に耽溺することを選ぶ男を通し、リアルを放棄して2次元(2.5次元)キャラを生涯愛し抜く覚悟はあるかと問う、切なくも恐ろしい寓話である。