清水 節

清水 節

略歴: 映画評論家/クリエイティブディレクター●ニッポン放送「八木亜希子LOVE&MELODY」出演●映画.com、シネマトゥデイ、FLIX●「PREMIERE」「STARLOG」等で執筆・執筆、「Dramatic!」編集長、海外TVシリーズ「GALACTICA/ギャラクティカ」DVD企画制作●著書: 「いつかギラギラする日 角川春樹の映画革命」「新潮新書 スター・ウォーズ学」●映像制作: WOWOW「ノンフィクションW 撮影監督ハリー三村のヒロシマ」企画・構成・取材で国際エミー賞(芸術番組部門)、ギャラクシー賞(奨励賞)、民放連最優秀賞(テレビ教養番組部門)受賞

近況: ●「シン・ウルトラマン」劇場パンフ執筆●ほぼ日の學校「ほぼ初めての人のためのウルトラマン学」講師●「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」劇場パンフ取材執筆●特別版プログラム「るろうに剣心 X EDITION」取材執筆●「ULTRAMAN ARCHIVES」クリエイティブディレクター●「TSUBURAYA IMAGINATION」編集執筆

清水 節 さんの映画短評

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  • シンクロナイズドモンスター
    戦う「大アン・ハサウェイ」の苦悩と葛藤のルーツは「大日本人」
    ★★★★★

     職を失い酒に溺れて故郷に帰った、壊れたアメリカ人女性の分身が、巨大怪獣となって韓国に出現し、周囲を犠牲に…。うしろめたさから責任感が芽生える過程が興味深い。内的に問題を抱えたヒロインの克服劇。オスカー女優アン・ハサウェイが演じることでシュールさが増す。原題は「COLOSSAL」=“巨大な”。社会批判のメタファーではなく、『禁断の惑星』のイドの怪物のような、アルターエゴのモンスター化。脚本監督を務めたナチョ・ビガロンドは、松本人志監督作品の影響下にあると公言する。真のルーツは、普通の人間の日常的な葛藤が巨大化した不条理コメディ『大日本人』。邦題は『大アン・ハサウェイ』の方がしっくりする。

  • IT/イット “それ”が見えたら、終わり。
    魔物が潜む郷愁の80年代に、闇を克服する瑞々しい思春期ホラー
    ★★★★

     長大な原作を圧縮する上で、瑞々しい思春期のストーリーに比重を置き、7人の少年少女を描き分け、恐怖描写にのみ照準を絞らなかった。50年代を舞台としたキング原作を80年代にスライドさせた戦略により、確実に客層も拡げている。魔物が棲むノスタルジックな近過去を乗り越える“裏スタンド・バイ・ミー”として見事な完成度。過干渉、DV、性的虐待…ここでの恐怖は大人達や社会の闇がもたらすものであり、克服すべき通過儀礼でもある。文学的なまでの奥行きを生み、観客の数だけペニーワイズはいると感じさせる普遍化も巧い。恐怖×冒険×成長のブレンドによって、全盛期のアンブリンも成し得なかった思春期ホラーの傑作が誕生した。

  • 婚約者の友人
    残酷な死や嘘を見つめ直し、生きる気力が湧いてくるまでの心の旅
    ★★★★

     フランソワ・オゾンが、戦死した婚約者をめぐるメロドラマに挑むかのようにみせ、やがて気高い境地へといざなう。死の影が覆う第1次世界大戦後のドイツとフランス。モノクロ映像の中で悲しみにくれるヒロイン、パウラ・ベーアの透明感が美しい。眼前に現れた亡き婚約者の友人である美青年がミステリーを牽引し、ヒロインの内的変化によって画面が仄かに色づく演出に息を呑む。マネの絵画『自殺』を見つめ、「生きる気力が湧いてくる」と彼女は捉えるようになる。トラウマとなる程の「死」や「嘘」をポジティブに捉え直し、決然と生きる覚悟が宿るまでの心の旅。再びナショナリズムが台頭する現状へのアンチテーゼとしても、深い余韻を残す。

  • ブレードランナー 2049
    「2049年ピノキオの旅」それは孤独な自分探しの切実な叙事詩
    ★★★★★

      前作の謎に回答しつつ、根幹に曖昧さを残す巧妙な展開。170億円かけたエンターテイメントとアートの融合は、タルコフスキーやナボコフを引用しながら描く「2049年ピノキオの旅」だ。砂嵐が吹きすさび雪の舞い散る死にゆく世界で、感情を標準装備しても魂の虚ろな者が、不確かな記憶をよすがにアイデンティティを求めて彷徨う。独り苦悩し慰撫する主人公は、現実が侵食され身体性が希薄でディスコミュニケーションな我々に似ている。人間よりも人間らしい者たちが不意に流す涙が切ない。愛と人間性を問いかける実存的テーマは前作以上に深い。ディストピアSFとしてよりも、自己探求の切実な叙事詩として永く語り継がれることだろう。

  • ゲット・アウト
    差別される者の実感に、黒い笑いを交えた恐怖映画の新機軸。
    ★★★★

     相手はゴーストやクリーチャーじゃない。恐怖映画の新機軸だ。白人家庭に招かれた黒人青年の視点を通し、表面的にはリベラルを装う人々の心理が、薄皮を剥ぐようにして明らかになっていく。偏った理念に基づく、許されざる異常な行動。しかし絵空事とは思えない。黒人コメディアンのジョーダン・ピール監督が、経験に基づきダークな笑いを交え、切れ味鋭く社会批判を繰り出す。被差別者が味わう陰湿な空気をVRよろしく体感させ、エンターテインメントにまで昇華させている。分断が深まるアメリカだが、こうした形で表現が行われ、受け入れられることは見事だ。日本にも潜む同質のテーマ。このタッチのフォロワーは出現するだろうか。

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