略歴: 映画評論家/クリエイティブディレクター●ニッポン放送「八木亜希子LOVE&MELODY」出演●映画.com、シネマトゥデイ、FLIX●「PREMIERE」「STARLOG」等で執筆・執筆、「Dramatic!」編集長、海外TVシリーズ「GALACTICA/ギャラクティカ」DVD企画制作●著書: 「いつかギラギラする日 角川春樹の映画革命」「新潮新書 スター・ウォーズ学」●映像制作: WOWOW「ノンフィクションW 撮影監督ハリー三村のヒロシマ」企画・構成・取材で国際エミー賞(芸術番組部門)、ギャラクシー賞(奨励賞)、民放連最優秀賞(テレビ教養番組部門)受賞
近況: ●「シン・ウルトラマン」劇場パンフ執筆●ほぼ日の學校「ほぼ初めての人のためのウルトラマン学」講師●「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」劇場パンフ取材執筆●特別版プログラム「るろうに剣心 X EDITION」取材執筆●「ULTRAMAN ARCHIVES」クリエイティブディレクター●「TSUBURAYA IMAGINATION」編集執筆
旧約聖書や数々の戦争映画の記憶をちりばめ、猿と人間の戦いを描く三部作は、現代の映し鏡だ。ウディ・ハレルソン扮する大佐に集約されるのは、対話なき圧力であり、力にのみ訴えるプリミティブな本能。猿の統率者シーザーに象徴されるのは、知性と“人間性”。VFXであることも忘れ、猿の自然な演技には見入るばかり。少女ノヴァの存在が、原点への繋がる構成が心憎い。1968年に始まるオリジナル版では、全面核戦争で滅ぶ人類を嘆き、猿の台頭を恐れたが、2010年に始まるこの三部作は一転、軽やかな活劇から徐々に重厚感を増し、愚かな人間を突き放して諦観し、猿の可能性に世界の未来を託すアイロニカルな神話となった。
スポ根にはならないスポーツ・ラブコメ。元天才卓球少女・新垣結衣が再びラケットを持つ動機といい、元ボクサーの瑛太との出会いを始めとした彼女をめぐる人間関係といい、古沢良太脚本は堅実だが破綻もない。普通の人々の内面に深入りしない戯画的な筆致は、傷つけ合わぬよう配慮する今どきの人間関係そのもの。ピンポン球がVFXであろう事実を忘れさせるほど、試合の心理的駆け引きに力点が置かれるわけでもない。1時間20分で終わるストーリーに捻りを加えた1時間59分。収穫は、蒼井優扮する破壊的なまでの中国人キャラ。汗も笑いも涙も薄めの、低温エンタメ。それでも幸福感をもたらすガッキーの引力を前にして、最後には跪く。
やはりトム・クルーズには、常軌を逸し振り回されても再び立ち上がる、ムチャな男が絶妙にハマる。CIAや麻薬組織を手玉に取ったようでいて実は利用され足蹴にされた、小悪党のパイロット。中南米政策をめぐる国家的迷走と今に至る失策への批判的精神は、ブラックな笑いに包みながらも鋭利だ。70年代後半から80年代前半の実話。挿入される、ざらついたビデオ映像が効果的で、あの時代の狂騒ぶりを想起させる。『オール・ユー・ニード・イズ・キル』以来のダク・リーマン監督とのコンビ。共通項を挙げるなら、最悪のリフレイン。もっとカタルシスを与えられれば、“空飛ぶウルフ・オブ・ウォールストリート”的傑作になったはずだ。
長躯の優れたフィジカルで魅せると同時に、自らを傷つけることで逆説的に美貌を際立たせてきたシャーリーズ・セロンにとって、このスパイ大活劇はフュリオサ(マッドマックス~)後の大きな到達点。スタント/アクション指導のプロであるデヴィッド・リーチ監督による、過激で生々しく果てしない実戦ファイトは、格闘後の疲弊した彼女をも輝かせる術を十二分に心得ている。ベルリンの壁崩壊直前の1989年という混沌とした状況下、スパイ暗躍のアングラなムードを醸成する美術&音楽、超絶的キャメラワークも魅惑的。<ジェイソン・ボーン×ジョン・ル・カレ>というコンセプトに誤りはないが、物語の語り口がもどかしいのは何とも残念だ。
スイーツなトレンドに背を向けた、抜き差しならない恋愛映画を、メジャーで成立させた意欲作だ。濃密な空気の中で蠢く、旬な俳優の内なる表情。すがろうとする有村架純のゆらぎ。茫洋とすればするほど漂う松本潤のエロス。不安が束縛に代わる坂口健太郎の狂気。有村の回想形式ゆえ、美化された記憶なのだろう。愛の行為も健闘はしているが、引用される『浮雲』と比肩するならば、まだ入り口に留まっている。どうしようもなく断ち切れない関係を表わすには、松潤視点による肉欲やズルさも必要だった。堕ちていく感覚に乏しい。それが時代性や若手俳優の限界とは思えない。とはいえ、漫画原作ありきの邦画市場に変化をもたらすことを切に願う。