清水 節

清水 節

略歴: 映画評論家/クリエイティブディレクター●ニッポン放送「八木亜希子LOVE&MELODY」出演●映画.com、シネマトゥデイ、FLIX●「PREMIERE」「STARLOG」等で執筆・執筆、「Dramatic!」編集長、海外TVシリーズ「GALACTICA/ギャラクティカ」DVD企画制作●著書: 「いつかギラギラする日 角川春樹の映画革命」「新潮新書 スター・ウォーズ学」●映像制作: WOWOW「ノンフィクションW 撮影監督ハリー三村のヒロシマ」企画・構成・取材で国際エミー賞(芸術番組部門)、ギャラクシー賞(奨励賞)、民放連最優秀賞(テレビ教養番組部門)受賞

近況: ●「シン・ウルトラマン」劇場パンフ執筆●ほぼ日の學校「ほぼ初めての人のためのウルトラマン学」講師●「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」劇場パンフ取材執筆●特別版プログラム「るろうに剣心 X EDITION」取材執筆●「ULTRAMAN ARCHIVES」クリエイティブディレクター●「TSUBURAYA IMAGINATION」編集執筆

清水 節 さんの映画短評

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  • 映画 山田孝之 3D
    まんまとユニバースに巻き込む、カリスマによる虚実皮膜の77分
    ★★★★★

     テレ東『山田孝之のカンヌ映画祭』を全話視聴し、嘘と誠の境界が不明のまま放り出された者としては見届けねばなるまい。だが、山下敦弘監督爆死説も定かにならず、芦田愛菜との競演も果たされず、ただただ山田孝之の生い立ちや人生観に詳しくなる、インタビュー中心の77分。まんまと騙された感はある。“ツリー・オブ・ライフな”背景映像はともかく、エンドロールに最も3D効果は感じられたが、もしかしたらDは3つの単語の頭文字で、真の題名は『山田孝之ディスカバリー・ドキュメンタリー・ドラマ』かもしれない。本作は、山田がカンヌ出品予定作『穢の森』への出資を断られた東宝の映像事業部作品。ますます虚実皮膜は曖昧になる。

  • ハクソー・リッジ
    凄惨な戦闘描写が、戦わない勇気と救う尊さをより際立たせる
    ★★★★

    「戦わない」勇気と「救う」ことに懸ける尊さを、主人公デズモンドに扮した繊細なアンドリュー・ガーフィールドが身をもって訴えかける。白兵戦の容赦なき凄惨な描写が、崇高な魂をより際立たせる。そこには監督メル・ギブソン自身の、内なる暴力性への贖罪の念も感じられる。翻って、二度と過ちを繰り返すまいと戦争放棄を謳う憲法を有したはずのわが国の精神を、デズモンドの中に見る思いがした。善悪二元論を超え、暴力に抗い非戦を目指す新しい戦争映画だ。ただし、デズモンドが日本兵さえも手当てするシーンはあるものの、祖国を死守しようとした沖縄の日本兵が地獄絵の中の「敵軍勢」として描かれている点に、演出の限界がみえる。

  • 怪物はささやく
    少年にとって酷薄な現実を受け容れるために絶大な「物語」の力
    ★★★★

     観る者の想像力が試される。母に迫る死の影。父性を欠いた家庭。夜ごと少年の前に現れる巨木の怪物。酷薄な現実を受け容れるには「物語」の力が絶大であることを見事に視覚化した、苦いファンタジーである。メタファーと呼ぶにはあまりに直接的な悪夢。美しいアニメの挿入があってもなお、幻想は重く暗いトーンのまま。少年の苦悩の深さゆえだ。表層や建前の向こうにある真実にたどりつくまでのセリフは、やや説明過多で教条的だが、物語を通しても知り得なかったもうひとつの真実を知らせる、原作にないエンディングこそ重要だ。少年は心の中に、独りで怪物を棲みつかせ育んだのではない。家族の魂は、連綿と繋がっている。

  • 22年目の告白−私が殺人犯です−
    劇場型犯罪やTVジャーナリズムを批評的に射る硬派なミステリー
    ★★★★

     プロットが入念に練られた上質のエンターテインメントだ。奇抜なアイデアから出発し「恨」を基調に戯画的アクションが際立った原作の韓国映画『殺人の告白』を、劇場型の狂気とTVジャーナリズムを批評的に射る硬派なテーマへと転換させ、事件関係者を多角的に描いて巧妙に換骨奪胎。名乗り出る殺人犯藤原竜也の多面性と、身体性に長けた正義漢伊藤英明のコラボがダイナミズムを高めた。美術的ディテールへのこだわりも奏功し、16mmやHi8で撮影した過去の質感もリアリティを強化している。1995年というこの国の曲がり角を起点とし、本作の同時代性は国際社会の闇にも及ぶ。入江悠監督のメジャー登板が増えることを期待しよう。

  • セールスマン
    深層心理の変化をあぶり出すシチュエーション・トラジェディー
    ★★★★

     住居が突如崩壊し始め、夫婦が引越しを余儀なくされる不穏な滑り出し。イラン社会が抱える歪みがドラマの推進力だ。新居で妻は性犯罪に襲われる。古き価値観に囚われた、心の揺れの描写が鋭い。核心を見せぬままミステリアスに語り進め、眩惑する。犯人捜しはやがて夫による復讐劇へと移行し、夫婦間のズレが露わになる。劇中劇「セールスマンの死」が、急激な変化に適応できない現代人を暗示し、社会風刺に奥行きを与える。緻密なシナリオでありながら、俳優陣は監督の操り人形になることなく、複雑な深層心理の変化を自然に表現する。アスガー・ファルハディ監督は、異変に端を発するシチュエーション・トラジェディーの新たな秀作を生んだ。

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