略歴: 映画評論家/クリエイティブディレクター●ニッポン放送「八木亜希子LOVE&MELODY」出演●映画.com、シネマトゥデイ、FLIX●「PREMIERE」「STARLOG」等で執筆・執筆、「Dramatic!」編集長、海外TVシリーズ「GALACTICA/ギャラクティカ」DVD企画制作●著書: 「いつかギラギラする日 角川春樹の映画革命」「新潮新書 スター・ウォーズ学」●映像制作: WOWOW「ノンフィクションW 撮影監督ハリー三村のヒロシマ」企画・構成・取材で国際エミー賞(芸術番組部門)、ギャラクシー賞(奨励賞)、民放連最優秀賞(テレビ教養番組部門)受賞
近況: ●「シン・ウルトラマン」劇場パンフ執筆●ほぼ日の學校「ほぼ初めての人のためのウルトラマン学」講師●「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」劇場パンフ取材執筆●特別版プログラム「るろうに剣心 X EDITION」取材執筆●「ULTRAMAN ARCHIVES」クリエイティブディレクター●「TSUBURAYA IMAGINATION」編集執筆
イタリア政界をモチーフにしながらも、政治を描くわけではない。これは、社会と真剣に向き合った挙げ句、疲れ切った男のドラマだ。突如失踪した政治家の代わりに、双子の兄を替え玉にする奇策。消えた男が自分を取り戻すうちに、現れた男は予期せぬ人気を勝ち得ていく。入れ替わった立場から観る光景は瑞々しく、人は皆、本来自由であり、自分らしく振る舞うことの大切さを教えてくれる。喩えるなら、ケヴィン・クライン『デーヴ』×ピーター・セラーズ『チャンス』の要素が入り混じるとでも言おうか。もの悲しさと微かな笑いが交錯し、ここには、世の中や人生を見つめ直す、穏やかな時間が流れている。
『キングスマン』が投げかけた、『007』や『Mi』シリーズに対するスパイ映画のアンチテーゼが、本作でより一層加速しそうだ。それは「シリアス×汗」を否定し「コミカル×粋」を志向すること。TVドラマ『0011ナポレオン・ソロ』の舞台を現代に置き換えることなく60年代のままにすることで、米ソが共闘する格調高き時代劇ファンタジーの趣きが生まれた。ヘンリー・カビル×アーミー・ハマーのバディものでもあるが、彼らのキャラが被るのは玉に瑕。上司にヒュー・グラントを持ってくるセンスで、大目に観ようか。ハスキーボイスでツンデレに徹する北欧出身ヒロイン、アリシア・ヴィキャンデルの存在感が次第に大きくなっていく。
80年代アンブリン映画が、『SUPER8/スーパーエイト』を経て古典になった。これは、未知なるものとの出会いを通して大人の階段を昇る少年の成長譚だ。演出的にはモキュメンタリー、撮影はPOV方式。主人公は、SNSでつながりながらも普遍的な不安と切なさを抱く現代のティーン。彼らの恐れと不安が、精緻なVFXによるクライマックスによって解放される。未知の生命体「エコー」をデザインしたのは19歳のデザイナー。その造形は日本映画『ジュブナイル』のテトラを思わせるという声もあるが、ルーツは1981年版『タイタンの戦い』の“メカ・フクロウ”ブーボだろう。
エッセンスを凝縮させジャンプ世代への愛に満ちあふれた脚本が素晴らしい。キャラクターやエピソードの整理、独自の味つけ、2時間でカタルシスを与える構成――。編集部vs漫画家/漫画家vs漫画家を主軸に「友情・努力・勝利」をテーマとし、挫折を経て上昇する者たちの切磋琢磨がまぶしい。決して多くを語らず、今が旬の配役でキャラの個性を表わし、CGバトルとプロジェクションマッピングによって作り手の内的世界への想像力をバクハツさせる。手塚治虫が唱えた漫画絵における基本要素「省略・誇張・変形」は、映画の実写リアルにおいても重要だ。思春期にこの青春映画を観てしまえば、世の異端児はみなクリエイターを志すだろう。
地対空砲の飛び交う映像が茶の間に流された湾岸戦争は「ゲーム感覚」と呼ばれたが、軍事用ドローンの導入でさらに様相が異様になった現代の戦争をまざまざと見せつけられる。対テロ戦争の現実は、正義感も大義名分も抱きがたい「ゲーム」そのものだ。空軍基地のコンテナでモニターを見つめ、遙か異国の敵をクリックひとつでミサイルにより一掃し、帰宅後は家族と食事。返り血も硝煙も無縁の静かで正確な殺戮と日常の往き来に、兵士の精神は壊れていく。テクノロジーに侵蝕される人間性を描いてきたアンドリュー・ニコルの張り詰めた演出がいい。戦争のリアルを知る元戦闘機乗りが、人として取った最後の行動を思わず支持し、ハッと我に返った。