略歴: 映画評論家/クリエイティブディレクター●ニッポン放送「八木亜希子LOVE&MELODY」出演●映画.com、シネマトゥデイ、FLIX●「PREMIERE」「STARLOG」等で執筆・執筆、「Dramatic!」編集長、海外TVシリーズ「GALACTICA/ギャラクティカ」DVD企画制作●著書: 「いつかギラギラする日 角川春樹の映画革命」「新潮新書 スター・ウォーズ学」●映像制作: WOWOW「ノンフィクションW 撮影監督ハリー三村のヒロシマ」企画・構成・取材で国際エミー賞(芸術番組部門)、ギャラクシー賞(奨励賞)、民放連最優秀賞(テレビ教養番組部門)受賞
近況: ●「シン・ウルトラマン」劇場パンフ執筆●ほぼ日の學校「ほぼ初めての人のためのウルトラマン学」講師●「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」劇場パンフ取材執筆●特別版プログラム「るろうに剣心 X EDITION」取材執筆●「ULTRAMAN ARCHIVES」クリエイティブディレクター●「TSUBURAYA IMAGINATION」編集執筆
6作目『ロッキー・ザ・ファイナル』は有終の美を飾ったが、還暦ファイトは痛ましくもあった。20代のライアン・クーグラー監督がまもなく古希を迎えるスタローンを口説き落として生まれた今作は、好敵手アポロの息子というシリーズの盲点を主役にもってきた。血を引く息子は遠ざかっても、ロッキーのスピリットは、世代も人種も超え、志ある者にしっかりと継承される。選手に肉薄するファイトシーンの撮影が素晴らしい。第1作のトレーナーだったミッキーとほぼ同年齢になったロッキーが、脇に回りセコンドに就く姿に、映画ファンなら自らの歳月を重ね合わせるはずだ。力強く瑞々しい「クリード」シリーズの今後に惜しみないエールを贈る!
エピソード4を魅力的なものにしていた、いい意味でのB級アクション映画としての“軽み”を取り戻しながらも、過去6作とは趣の異なる、善と悪が入り混じった神話としての世界観が、二元論では割りきれない今の空気を捉えている。
逃亡、屈折、そして失踪。誰もが皆、アイデンティティを模索し、葛藤している。旧三部作の懐かしきキャラクターたちを前面に押し出しすぎることなく、拠り所を喪失した新世代の迷いや決意を輝かせることに成功している。
前半は演出的な運びにもたつきがあるが、もはや伝説的な人物であるルークの存在を核とした真っ直ぐな脚本が、すべてを牽引し、いくつもの謎を散りばめつつ力強くラストへと向かう。
架空の国を舞台にしながらも、独裁国家ならいつどこでも起こりうる寓話。お伽噺のような味わいは、決して為政者や民衆の愚かしさを強調するためではない。監督が目の当たりにしてきた生々しい現実を普遍化し、エンターテインメント化して伝えようとする意思の表われだ。それでも苛烈な描写は避けられず、無秩序が剥き出しになる瞬間が訪れるゆえ、映画としての背骨とメッセージは強くなる。
権力を失い、無垢な孫を連れた独裁者の逃避行は、自らの圧政が招いたむごい結果を目撃する旅になるが、諸悪の根源である彼の処遇こそが真のテーマ。暴力に苦しんだ者たちに、民主化のために為すべきことを問いかける終盤は圧巻だ。
84歳の名匠がCGも駆使した戦争ファンタジーは、忘れ去られようとしている時代の実感を語り継ぐディテールに優れている。長崎の原爆投下直後を表現するインク瓶の瞬時の溶解、生卵の貴重さを言い表す黒木華のセリフ、兵士たちの霊の憔悴した姿…戦争を知る世代ならではの描写力に息を呑む。戦死した若き詩人竹内浩三へオマージュを捧げた医大生像を的確に捉え、悲劇を湿っぽくしない、葛飾出身の二宮和也の軽やかな存在感がいい。
ただし総体としては、映像よりも会話の力に頼りすぎたきらいがある。発想の源になった、井上ひさしの戯曲の世界に囚われすぎたのではないか。もっと吉永、二宮、黒木の、表情や間をこそ観たかった。
前作がMとの関係を描く母子篇ならば、今作は出自と向き合う父子篇。「ボンド家族」二部作の趣に、クレイグ=ボンド作品を束ねる結節点も用意した。初期の犯罪組織の復活、めっぽう強い殺し屋の出現、Qの発明による秘密兵器の活躍。感傷的で厳かな前作とは打って変わって大らかなアクションの王道を目指すが、その反面シリアスな物語の追求は宙ぶらりんになり、ドラマ作家サム・メンデス演出はバランスを失う。セルフ・オマージュとしてシリーズ名場面を散りばめたベスト・アルバム的な構成は、これぞボンド映画と称える往年の快楽主義者を喜ばせるが、団子の串刺し感は否めない。変革に挑んだ『スカイフォール』の輝きがより増してきた。