清水 節

清水 節

略歴: 映画評論家/クリエイティブディレクター●ニッポン放送「八木亜希子LOVE&MELODY」出演●映画.com、シネマトゥデイ、FLIX●「PREMIERE」「STARLOG」等で執筆・執筆、「Dramatic!」編集長、海外TVシリーズ「GALACTICA/ギャラクティカ」DVD企画制作●著書: 「いつかギラギラする日 角川春樹の映画革命」「新潮新書 スター・ウォーズ学」●映像制作: WOWOW「ノンフィクションW 撮影監督ハリー三村のヒロシマ」企画・構成・取材で国際エミー賞(芸術番組部門)、ギャラクシー賞(奨励賞)、民放連最優秀賞(テレビ教養番組部門)受賞

近況: ●「シン・ウルトラマン」劇場パンフ執筆●ほぼ日の學校「ほぼ初めての人のためのウルトラマン学」講師●「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」劇場パンフ取材執筆●特別版プログラム「るろうに剣心 X EDITION」取材執筆●「ULTRAMAN ARCHIVES」クリエイティブディレクター●「TSUBURAYA IMAGINATION」編集執筆

清水 節 さんの映画短評

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  • 四十九日のレシピ
    血よりも縁。ゆるやかなつながりでも人は無上の癒しを得る
    ★★★★

     突然の死が招き寄せる喪失感。無骨な夫・石橋蓮司は路頭に迷い、娘・永作博美は浮気した亭主を置いて実家に還る。重い空気を切り裂くのは、ロリータ少女・二階堂ふみと日系ブラジル青年・岡田将生。闖入者は温かな調味料になるだけでなく、家族をほぐし、「四十九日には大宴会を」という母の願いを叶えるべく物語は動き出す。
     
     継子であり子宝に恵まれない女性の負い目が、通奏低音ではある。しかし孤立をことさらには捉えない。インサートされる後悔と愛惜の過去が独特のリズムを生む。静かに流れる「川」を日本人の死生観の象徴として捉え、陰影と余白の豊かな近藤龍人の撮影が美しい。終盤へ向かうほど煌めきを増す永作の表情の変化こそが、映画的ダイナミズムだ。
     
     タナダユキは、原作のファンタジー色を排し、地に足の着いた姿を切り取る。血よりも縁。他者とのゆるやかなつながりでも、人は無上の癒しを得る。これはマニュアルなき少子高齢化の現実を生きるための処方箋だ。娘と父のささやかな再生劇ではあるのだが、個々がバラバラになったこの国で生きづらさを抱く者なら、登場する人物の誰かしらに自身の影を見出すだろう。

  • 悪の法則
    肉体切断に執着した陰惨な殺し方カタログ
    ★★★★★

     巨匠がメガホンを執り、主演級スターが5人も顔を揃えている。“偽装表示”などなく、強めのスパイスも利かせたのに、決して美味くはない高級レストランの料理のようだ。
     
     マイケル・ファスベンダーが、友人ハビエル・バルデムとヤバイ仕事に手を出し、ひょんな誤解から裏組織の逆鱗に触れて、愛するペネロペや関与したブラピらに、容赦なき残忍な魔の手が伸びる。ただそれだけのストーリーを、官能性たっぷりにリッチな画づらで思わせぶりに描く。キャメロン・ディアスが180度開脚してフェラーリのフロントガラスに下半身を押し当てる場面で生唾を呑むか、ネタと受け取り苦笑するか。筆者は後者だ。
     
     「別の種族」と怖れられる中南米裏組織による手口が酷い。肉体の切断に執着している。何か凄いことを見せられていると興奮させる術。しかしそれは、巨匠と名優の足跡に惑わされた錯覚にすぎない。迷走する異才が刹那の刺激で煙に巻こうとしたものの、後味の悪さだけが尾を引く。魅惑の悪は存在せず、結果的に品行方正で安全な暮らしを希求させるプロパガンダに堕している。陰惨な殺し方カタログに終始したという意味において『アウトレイジ』にも等しい。

  • 劇場版 魔法少女まどか☆マギカ[新編]叛逆の物語
    嘘で塗り固められた「今」を看破する危険な寓話
    ★★★★

     物語自体は閉ざされたセカイで進むが、仮初めの平和の綻びから世界の秘密を盗み見ようとする野心に満ちている。目には見えない宇宙の摂理。歴史は女で作られる。
     
     いつか見た、虚構の世代の終わらない学校的日常。祝祭空間にひたひたと押し寄せる不安。やがて悪意は強大になり、螺旋を描きながら破局へと向かう。狂ったようなヴィジュアルの快楽に浸る前半。煌びやかな街で繰り返されるイマジネーション豊かな光景は、TVシリーズがオンエアされていた3.11後の灯が消えた頃の日常とは対照的で、まるで嘘八百で塗り固められた今現在の、幸せ芝居のよう。
     
     前作で世界は創り変えられたはずだった。ヒロインを犠牲にして。脚本家・虚淵玄は、時を超越したキュゥべえの存在そのものだ。真摯に真実を語るようでいてミスリードしながら観る者の脳を攪乱し、やはり、秩序よりも欲望が勝ってしまう人間の業に肉薄する。TVシリーズの続きというよりは、あの結末を盲信したままではいけないと裏書きし、世界の成り立ちを補完する役割を担う。梶浦由記によるEDテーマ「君の銀の庭」の詞は、膨大なセリフに翻弄される本作の謎を解明するための、最良のガイドだ。

  • 42 ~世界を変えた男~
    「倍返し」ブームへの大いなるアンチテーゼ
    ★★★★

     時代を変えた生き様。白人文化であったベースボールが、有色人種に門戸を開く上でキー・パーソンとなった男の物語だ。近代メジャーリーグにおいて黒人初のプレーヤーとなり、後に全球団共通の永久欠番となった背番号42、ジャッキー・ロビンソン。易しい語り口で説く脚本・監督のブライアン・ヘルゲランドは、たった1つのテーマを繰り返し強調する。それは、激しい差別にただひたすら耐えた事実だ。
     
     奴隷制度は廃止されても人種隔離法の下、公然と差別が行われていた第2次大戦直後。MLBに大抜擢されたロビンソンは、チーム内での排斥、対戦相手からの罵倒、観客の野次に、耐え抜く。奴らと同じレベルで闘わない。彼を見初めたドジャースGMブランチ・リッキーに託された「やり返さない勇気」を守り通すプロセスが胸を打つ。無抵抗の精神こそがメジャーリーグに新たな時代を切り拓いた。
     
     構成は『あまちゃん』のようだ。主人公は成長することなく彼の存在に触れて周囲が変わっていくのだから。報復の連鎖の虚しさが忘却され始め、鬱屈した人々にカタルシスを与えるため勧善懲悪のテーゼが甦る兆しもある中、この映画の存在はスマッシュヒットだ。

  • キャリー
    健康的な美少女に発露するのは念動力ではなく魔法に見えてしまう
    ★★★★★

     マーケティングという文明に飼い慣らされた観客には、初潮に戸惑う孤独な少女の残酷童話も、この程度のエロスと野蛮にとどめておけ――そんなスタジオ首脳陣の囁きが聞こえる筆者には、テレパシーが備わっているのだろうか。ライトなリブートにはめくじら立てず喜んでみせるのがトレンドなのだろうが、ここは本音を言わねば映画の女神に失礼だ。
     
     陰湿なスクールカーストを粉砕し、忌わしい血筋を断ち切るゴシック・ホラー。キンバリー・ピアースが女性視点で、狂信的な母ジュリアン・ムーアとの関係性を掘り下げたのは収穫だった。しかし、踏みにじられ排斥された健康的な美少女クロエ・グレース・モレッツに発露するのは、念動力ではなく魔法に見えてしまうのが最大の欠点。自我がしっかりしている。ならば『魔法少女キャリー・ホワイト[新編]叛逆の物語』として、ストーリーも変えるべきだ。
     
     感情と現象の遊離。驚愕の見せ場をバラエティ番組風にスイッチングで割る編集にはげんなりする。屈辱と憤怒の延長線上に弾ける力という意味において、キング発デ・パルマ経由の精神を受け継ぐ真の現代版キャリーとは、『クロニクル』だったのかもしれない。

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