清水 節

清水 節

略歴: 映画評論家/クリエイティブディレクター●ニッポン放送「八木亜希子LOVE&MELODY」出演●映画.com、シネマトゥデイ、FLIX●「PREMIERE」「STARLOG」等で執筆・執筆、「Dramatic!」編集長、海外TVシリーズ「GALACTICA/ギャラクティカ」DVD企画制作●著書: 「いつかギラギラする日 角川春樹の映画革命」「新潮新書 スター・ウォーズ学」●映像制作: WOWOW「ノンフィクションW 撮影監督ハリー三村のヒロシマ」企画・構成・取材で国際エミー賞(芸術番組部門)、ギャラクシー賞(奨励賞)、民放連最優秀賞(テレビ教養番組部門)受賞

近況: ●「シン・ウルトラマン」劇場パンフ執筆●ほぼ日の學校「ほぼ初めての人のためのウルトラマン学」講師●「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」劇場パンフ取材執筆●特別版プログラム「るろうに剣心 X EDITION」取材執筆●「ULTRAMAN ARCHIVES」クリエイティブディレクター●「TSUBURAYA IMAGINATION」編集執筆

清水 節 さんの映画短評

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  • ちいさな英雄−カニとタマゴと透明人間−
    存在感なき人間を描く山下明彦の『透明人間』は長編化すべき傑作
    ★★★★

     ストーリー性に縛られずアニメーションならではの可能性を楽しめる短編集。宮崎駿の影響色濃い米林宏昌の冒険譚『カニーニとカニーノ』、卵アレルギーと闘う少年の日常を描く百瀬義行の『サムライエッグ』。肝は山下明彦による傑作『透明人間』だ。存在感が希薄すぎる人間の悲哀を、重力に反して宙に浮き上がってしまうほど軽い透けた身体と、頼りない輪郭線と、淋しげな心象によって表現。観たこともない情緒的なアクションシーンが深い余韻を残す14分。主題歌は作品コンセプトを読み違えているとしか思えぬほど幼児性が強すぎるが、予定されていた高畑勲の『平家物語』が最終章を飾っていれば、このオムニバス構成は完璧だったであろうに。

  • スターリンの葬送狂騒曲
    恐怖政治に怯える組織人なら震えつつも笑い転げる権力闘争の実態
    ★★★★

     フランスのグラフィックノベルをイギリスの政治風刺劇の名手が映画化した、旧ソ連の権力闘争。独裁者スターリンの死の直前から始まるが、側近たちの狼狽や権力欲を露わにする姿は、ほぼ実話なのに滑稽極まりない。昨今の日本では、ピラミッド構造のトップの横暴が露見し、テレビやSNSに晒されて人々が溜飲を下ろす行為が繰り返されているが、その本質はここに描かれていることと何も変わらない。恐怖に基づく権力の暴走、全体主義の行き着く先は、いつの時代も歪にして愚かしいが、渦中にいる人間が客観視することは難しい。未だドンが君臨するあらゆる業界の組織人は、本作を震えつつも笑い飛ばし、改革のヒントを見出すかもしれない。

  • オーシャンズ8
    男達の泥臭い金庫破りを過去に追いやる、華麗なる女性集団大泥棒
    ★★★★

     シリーズのリーダー格ジョージ・クルーニーには妹がいた、という笑える接点はともかく、タイムズ・アップの時代を実感させる。『オーシャンズ』女性版という認識は改めた方がいい。男達の一世一代の金庫破りなど泥臭い行為とばかりに、女性達はゴージャスにして鮮やかに決める。会場はメトロポリタン美術館、狙いはメットガラのダイヤの首飾り。銃撃アクションも色仕掛けもないが、アクシデントに見舞われても知略の軌道修正は抜かりない。リーダーであるサンドラ・ブロックのもうひとつの目的は情念に満ちているが、演歌に陥ることもない。標的としての“人気ハリウッド女優”アン・ハサウェイのキャラクター造形が巧みで物語を膨らませる。

  • インクレディブル・ファミリー
    ブラッド・バードのリアリティの原点は『科学少年J.Q』
    ★★★★

     スーパーヒーローとスパイムービーとホームドラマを融合させた発明。60年代をスタイリッシュなものとして捉え直した美術感覚。14年前の前作直後から物語を始めても、もはや普遍的ゆえ違和感がない。男の威厳にこだわっていた父もすっかり育児の人となり、ヒーロー復権の白羽の矢が立つのは母というタイムリー性。惜しむらくはヴィランの存在感の薄さだが、敵役をメディアを介して洗脳されやすい大衆と考えれば、なんとも刺激的。ハリウッド製アニメでありながら、大人の視線を視野に入れたブラッド・バードは妥協を知らない。劇中TVとして登場するハンナ・バーべラのSFアニメ『科学少年J.Q』のリアリティは、本作の精神的ルーツだ。

  • ウインド・リバー
    辺境における苛酷な現実を、白銀のアクション映画に昇華させる業
    ★★★★

     女性が裸足で極寒の雪原に走り出て必死に逃げようとするが、倒れ命尽きる――。辺境からアメリカの貧困・差別・暴力といった苛酷な現実を見つめ続ける脚本家テイラ―・シェリダンの監督作は、ワイオミング州の先住民保留地における「癌よりも高い殺人死亡率」を題材に、過去を抱えるハンターと若きFBI捜査員の視点で導入し、アクション映画へと昇華させる。犯人探しミステリーが途絶し、回想で過去が明かされる形式が終盤を強化している。許されざる復讐。だが、怒りと悲しみのやり場の矛先がそこにしかない状況に、より絶望が深まる。クライマックスの“白い地獄”は、アンドレ・カイヤット監督作『眼には眼を』の灼熱の砂漠に匹敵する。

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