略歴: 映画評論家/クリエイティブディレクター●ニッポン放送「八木亜希子LOVE&MELODY」出演●映画.com、シネマトゥデイ、FLIX●「PREMIERE」「STARLOG」等で執筆・執筆、「Dramatic!」編集長、海外TVシリーズ「GALACTICA/ギャラクティカ」DVD企画制作●著書: 「いつかギラギラする日 角川春樹の映画革命」「新潮新書 スター・ウォーズ学」●映像制作: WOWOW「ノンフィクションW 撮影監督ハリー三村のヒロシマ」企画・構成・取材で国際エミー賞(芸術番組部門)、ギャラクシー賞(奨励賞)、民放連最優秀賞(テレビ教養番組部門)受賞
近況: ●「シン・ウルトラマン」劇場パンフ執筆●ほぼ日の學校「ほぼ初めての人のためのウルトラマン学」講師●「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」劇場パンフ取材執筆●特別版プログラム「るろうに剣心 X EDITION」取材執筆●「ULTRAMAN ARCHIVES」クリエイティブディレクター●「TSUBURAYA IMAGINATION」編集執筆
イーサンの哀しみで幕を開けるが、裏切りのプロットはいささか混乱気味。が、とことん魅せる!『スパイ大作戦』への痛快なオマージュで惹きつけ、アクション映画としての純度は極めて高い。パーティへの潜入に高度8000mからダイブする必要はあるのか!? というツッコミなど野暮。ビルジャンプ失敗骨折ネタは宣伝に奉仕し、すこぶる痛い便器バトルも縦横無尽バイクアクションも蛇行ヘリアクションも、トムのマゾ的プロ根性が全開。もはやストーリー性など二の次でいい。身体を張った活劇は、原初にして最強のエンターテインメントだ。20世紀的な映画の興奮を今に引き継ぐ、昭和37年生まれのトム・クルーズに喝采を贈ろう!
親の愛情を妹に奪われ屈折した4歳児が、時空を超える旅によってファミリーツリーにおける立ち位置を知るーー前衛的な野心作だ。幼児の表情や動きを表すアニメならではの生命力の追求は、高畑勲の後継者たらんとする細田守の新次元を予感させる。作劇は矛盾に満ちている。問題は視点。神の如き三人称で描かれるタイムスリップは、健やかな成長を祈る親の願望がもたらすものだろう。果たして認識能力に欠ける幼児は受容し、肯定できるのか。家族の過去も全て幼児の一人称で描かれていたなら、シュールでありながらも一貫性があったのではないか。連綿と続く“血の繋がり”に目覚める物語構造は、家族の形が多様化する時代にあって保守的に映る。
ヴィム・ヴェンダースによる前作が表層的なものに思えるほど、ドキュメンタリー作家ルーシー・ウォーカーによる今作は、レジェンド達とキューバ音楽を深く掘り下げる。あれから18年、バンドメンバーのうち何人かは他界していた。社会現象を巻き起こしたバンドの“さよなら”ツアーに密着しながらメンバーに肉薄し、明かされるキューバの音楽的ルーツ。アフリカ×スペイン×アメリカの奇跡的融合――つまり国の歴史が生んだ苦悩の音楽でもある。そうした曲に魅了されるのは痛みや悲しみに共鳴するからだろうか、と思いを馳せた。オバマからホワイトハウスに招かれ、演奏したのは過去の話。老いは不可逆だが、時代は逆行することを思い知る。
世界観や設定が饒舌なセリフによって規定されていく。そしてアクションに次ぐアクション。バトル主体でスピーディな展開に懸けているが、全編を通してフラットだ。幽霊が見えてしまう不条理、母を亡くした喪失感、修行で腕を上げるプロセス…ドラマ部分の劇性に欠ける。フィジカルなリアリティを追求した『るろ剣』とは異なり、悪霊の造形はもちろんバトルの在りようにもVFXへの依存度が高く、ほぼスタントなしで挑む福士蒼汰は、力を持て余しているように映る。あらかじめ続編を企図した作りは『ハガレン』同様に、カタルシスに欠ける。人気漫画シリーズの実写映画化第1弾は今後、1本での完結感で勝負すべきという反面教師になるだろう。
元妻アンリの回想録を基に脚本化。映画の変革者ゴダールを崇める者にとっては、複雑な想いを抱くであろう禁断のドラマだ。1968年の五月革命を核に、世界の最先端にあった60年代後半のフレンチ・カルチャーを批評的な視点をもって、鮮やかに、軽やかに、甦らせている。尖鋭化していくゴダールをデフォルメすることなく、神格化された偶像を剥がすミシェル・アザナヴィシウス演出は大胆不敵。愛すべき独善的な狂気の人格破綻者として、その素顔を生々しく暴いている。極度のジェラシーの後、彼が取ったエキセントリックな行動まで、避けずにあえて描き出す。決して貶めてはいない。エスプリの効いた痛烈な人間ドラマである。