略歴: 映画評論家/クリエイティブディレクター●ニッポン放送「八木亜希子LOVE&MELODY」出演●映画.com、シネマトゥデイ、FLIX●「PREMIERE」「STARLOG」等で執筆・執筆、「Dramatic!」編集長、海外TVシリーズ「GALACTICA/ギャラクティカ」DVD企画制作●著書: 「いつかギラギラする日 角川春樹の映画革命」「新潮新書 スター・ウォーズ学」●映像制作: WOWOW「ノンフィクションW 撮影監督ハリー三村のヒロシマ」企画・構成・取材で国際エミー賞(芸術番組部門)、ギャラクシー賞(奨励賞)、民放連最優秀賞(テレビ教養番組部門)受賞
近況: ●「シン・ウルトラマン」劇場パンフ執筆●ほぼ日の學校「ほぼ初めての人のためのウルトラマン学」講師●「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」劇場パンフ取材執筆●特別版プログラム「るろうに剣心 X EDITION」取材執筆●「ULTRAMAN ARCHIVES」クリエイティブディレクター●「TSUBURAYA IMAGINATION」編集執筆
過去に戻るためのルールは細かすぎて映像向きとは思えないが、和風幻想譚の系譜(浅田次郎『地下鉄に乗って』、辻村深月『ツナグ』、東野圭吾『ナミヤ雑貨店の奇蹟』…)に属す。SF性は希薄ながらも少しだけ悔いを癒す魔法の時間。4つのエピソードは、交わって物語が上昇していかないゆえ、4話分のTVドラマにした方が感動は濃かっただろう。タイムスリップの瞬間を、水中に落ちるハイスピードで見せた映像処理は効果的だった。しかし、謎の女・石田ゆり子の描き方には実写化の限界を感じさせる。映画初メガホン、塚原あゆ子の抑制の効いた演出に逆行する“泣ける”を強調したありきたりな宣伝は、そろそろ客足を止めるのではないか。
原作漫画における女子高校生の天才性と予測不能な行動が生むテンションを、平手友梨奈を口説き落として実写化した企画プロデュースは見事だ。山口百恵のメランコリーと満島ひかりのリベリオンを併せ持ち、嘘を嫌う稀有な才能が、映画という嘘の世界を本気で生きている。無邪気な笑顔を見せるアンビバレンツな瞬間もあるが、それは10代少女らしさを強調するに留まった。アイドル映画の手つきで彼女を演出するのは無理がある。この国に蔓延る男性原理や権威主義を破壊せんとするフィロソフィが、この監督には希薄だ。あの飛び蹴りをOKカットにしてはいけない。平手友梨奈の次回作がもしあるならば、園子温か是枝裕和の手に委ねるべきだろう。
2人の中年の男の些細な諍いで始まる、スリリングな導入。やがて国を揺るがす事態へと発展し、法廷劇に手に汗握らせるまで、息つく暇も与えない。舞台はレバノン。複雑な民族的背景をもち、暗く重い過去を引きずる両者には、それぞれの正義がある。火種が拡大するきっかけは、許されざる一言だった。尊厳をめぐる情念に満ちた対立を、渡米してタランティーノ組の撮影部で学んだジアド・ドゥエイリ監督は、ハリウッド的な話法と雄弁なキャメラワークで描く。分かり合えぬ分断の厳しさを普遍化し、魅せる術に長けている。そして提示される、和解へのささやかな可能性。政治的テーマをエンタメに昇華し、カタルシスまで与える超絶技巧を堪能した。
またしてもシャーリーズ・セロンが肉体改造して挑む秀作が誕生した。彼女が演じるのは、育児と家事に時間を費やし心身ともに疲れ切ったアラフォーの母マーロ。そこに現れる、謎めくベビーシッターの若き女性タリー。タリーの存在がマーロを甦らせていく。若さと可能性/老いと現実――そのコントラストによって、かつての理想と中流家庭の抱える問題が炙り出される。脚本家ディアブロ・コディの実体験に基づく空想を、ジェイソン・ライトマンは作劇上の仕掛けに生かし、現代社会の寓話へと昇華させた。あたかも2本の映画を観たかのような錯覚に囚われながら、家族が救済される光景に息を呑む上質の“ファンタジー”だ。
なんという瑞々しさ! 小学4年生がノート片手に、ペンギンが大量発生した謎と魅惑的な女性との関係性を解明しようと挑むジュブナイル冒険譚。スタジオコロリドの石田祐康監督は、あくまでも少年の視座からセンス・オブ・ワンダーに満ちた物語に仕上げている。生真面目な探求心が高じて猪突猛進するかのような「ペンギン・パレ―ド」の快楽に満ちた躍動感。揺れ動く弾力性のある深遠な「海」に象徴された不可思議やリビドー。森見登美彦の原作をベースに、独自のアニメーション表現の獲得に成功している。世界の謎と性的な芽ばえ――未知へのあこがれが、思春期の入り口に差し掛かった少年を成長させる、ひと夏の抒情SFとして秀逸だ。