略歴: 映画評論家/クリエイティブディレクター●ニッポン放送「八木亜希子LOVE&MELODY」出演●映画.com、シネマトゥデイ、FLIX●「PREMIERE」「STARLOG」等で執筆・執筆、「Dramatic!」編集長、海外TVシリーズ「GALACTICA/ギャラクティカ」DVD企画制作●著書: 「いつかギラギラする日 角川春樹の映画革命」「新潮新書 スター・ウォーズ学」●映像制作: WOWOW「ノンフィクションW 撮影監督ハリー三村のヒロシマ」企画・構成・取材で国際エミー賞(芸術番組部門)、ギャラクシー賞(奨励賞)、民放連最優秀賞(テレビ教養番組部門)受賞
近況: ●「シン・ウルトラマン」劇場パンフ執筆●ほぼ日の學校「ほぼ初めての人のためのウルトラマン学」講師●「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」劇場パンフ取材執筆●特別版プログラム「るろうに剣心 X EDITION」取材執筆●「ULTRAMAN ARCHIVES」クリエイティブディレクター●「TSUBURAYA IMAGINATION」編集執筆
偽の親に育てられ、ファンタジー番組の虜になったまま成長し、やがて現実を知る。人は思春期までに強く影響を受けたもので人生を決定づけられる。フィクションを強烈に浴び空想の翼を広げれば、とかくリアルは生きづらい。では現実にまみれればいいのか。これは、大好きな世界に入り込み、物語の続きを自らの手で作ることによって魂が救済される物語だ。心の拠り所とするフレーズ“May our minds be stronger tomorrow”は、もちろんあの映画へのオマージュ。それを発した偽の父はマーク・ハミル。多くの人々の人生を変え、自身の人生も変わり果てたフィクションの巨人の名演が、真実を強化している。
腐りきった体制がフェイクで仕掛けたカルト教団・腹ふり党の奇妙な腹踊りが、やがて民衆を巻き込んでガチに変わり、体制を襲う。VFXも駆使される大暴動。よくぞ顔を揃えた役者陣が、伝説の爆裂監督の下、信者のように狂い咲き、踊り狂う。だが狂気はこちらに伝染せず、マッドマックス的なグルーヴ感に至らない。あるサプライズを優先した過剰なナレーションが、観る者を客観に追いやる面もあるが、撮影現場では異様だったはずのテンションが、スクリーンを介すと、ただ滑稽さに回収されてしまう。リスクヘッジなき1社製作を敢行したエイベックス=dTVと、325館も開けた東映では、この夏、腹踊りに興ずる人々が増える予感がする。
これまでなら感傷に陥りウェットになりすぎたであろう物語を、洗練された語り口で別次元へ導く。人とは異なる苦悩をオギー少年は乗り越えられるか。安全圏としての家庭から、他者にまみれる学校という環境へ出て遭遇する奇異な視線。章ごとに人称が変わる小説よろしく、複数の人物の視点で語ることで閉塞から逃れ、多くの気づきが得られる。いじめっ子に罰を与えた校長に対し、その子を庇う親が反発する際、これぞ社会の現実とばかりに吐き捨てる台詞が、ステレオタイプの価値観を象徴する。悪意をも溶かすオギーの世界への肯定感が、周囲を変えていく。敵対せず、絶望せず、分け隔てなく人を信じれば、周囲からの怖れや先入観は消えていく。
西部劇フォーマットの脚本、60~70年代アクション映画の疾走感、旧三部作などに繋がるネタの数々。古風な作りは第1世代に訴求する。ジェダイとは無縁ながらも、師(父性)にあたる人物との関係によって神話性も用意され、SWらしさを担保する。とはいっても爽快感やユーモアセンスに欠け、主演男優の存在感の薄さはいかんともしがたい。そして何より、EP8による旧来の世界観の否定後、なぜ今ハン・ソロかという同時代性に疎かな側面は、“毎年公開疲れ”より重い失態。過去41年のSW映画史の中で、この物語を公開すべき最良のタイミングは2度あった。EP5後かEP7後だ。作品性よりもプロデュース面の甘さが本作を貶めている。
どうせ低予算ホラーでしょ、と敬遠していては後悔する。観始めて37分。長回し撮影に新味はあるか…それに演出は素人っぽい…。だがしかし、そこから本当の幕を開ける。ゾンビ映画の仮面を被っているが、これはカメラのフレームの外で起きている制作現場のカオスにこそ、映画の醍醐味が潜んでいるという真実に目を向けさせる作品だ。予測不能の事態や一回性といったファクターが、作り手をなりふり構わず本気にさせる。映画作りへの愛に満ちたこのビハインド・ムービーに、あらゆる物語は語り尽くされたと胡坐をかく者は嫉妬して発奮し、日本のエンタメに限界を感じていた観客は映画を愛し直し、96分後には笑いながら涙を流すことだろう。