清水 節

清水 節

略歴: 映画評論家/クリエイティブディレクター●ニッポン放送「八木亜希子LOVE&MELODY」出演●映画.com、シネマトゥデイ、FLIX●「PREMIERE」「STARLOG」等で執筆・執筆、「Dramatic!」編集長、海外TVシリーズ「GALACTICA/ギャラクティカ」DVD企画制作●著書: 「いつかギラギラする日 角川春樹の映画革命」「新潮新書 スター・ウォーズ学」●映像制作: WOWOW「ノンフィクションW 撮影監督ハリー三村のヒロシマ」企画・構成・取材で国際エミー賞(芸術番組部門)、ギャラクシー賞(奨励賞)、民放連最優秀賞(テレビ教養番組部門)受賞

近況: ●「シン・ウルトラマン」劇場パンフ執筆●ほぼ日の學校「ほぼ初めての人のためのウルトラマン学」講師●「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」劇場パンフ取材執筆●特別版プログラム「るろうに剣心 X EDITION」取材執筆●「ULTRAMAN ARCHIVES」クリエイティブディレクター●「TSUBURAYA IMAGINATION」編集執筆

清水 節 さんの映画短評

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  • ファントム・スレッド
    見えない糸で結ばれた男女の、支配と依存が反転する歪んだ愛
    ★★★★★

     導入は、ドレス作りに取りつかれた狂気のデザイナーによって見出される、凡庸な女性がミューズへと変わりゆくシンデレラストーリー。50年代英国オートクチュールの端正な美術と華麗な衣装ばかりに眼を奪われていてはならない。全てを統制したい男と従属に甘んじていた女の関係が、次第に変容していくプロセスこそが神髄だ。独善的な男に対し、非力な女は“毒を以て(盛って)毒を制す”。支配と依存が反転するスリルと快楽。優しさや慈しみや思いやりだけが愛の形ではないことを、2人を結び付ける“見えない糸”が教えてくれる。「歪んだ愛」と呼ばば呼べ。たとえ屈折していようとも、互いに求め合う強度に魅了され、愛の多様性を実感する。

  • 犬ヶ島
    ウェスの異常な愛情~人形たちが織り成す繊細な“日本映画愛”
    ★★★★★

    いつか見た日本映画の中の光景が、極めて繊細なストップモーション・アニメの未来都市として現出する。為政者によって強制的に島に隔離された愛犬を、一途な少年が犬たちと共に探しに行く冒険譚。その世界はどこか、弱き者が抑圧された今現在の日本のようでもある。黒澤映画の強烈な匂い、宮崎アニメのただならぬ気配、めくるめく浮世絵の美意識…。単なる引用ではない。細部にまでこだわり抜き、構図・撮影・美術・音楽に至るまで、日本カルチャーや日本映画への深い愛と敬意に満ちている。印象派画家たちに発見されたことで“世界の浮世絵”となったように、ウェス・アンダーソンの知性を通し、改めて日本映画が再評価される感覚さえあるのだ。

  • 友罪
    瑛太vs生田斗真ーー贖罪の念を背負う者たちが生きる意味を問う
    ★★★★

     かつて重い少年犯罪を起こし社会に出た人物が、自分の身近にいる者だとしたら…。記憶の奥底に眠る世紀末前後の禍々しさの残滓が潜伏している事実を突き付けられる。犯人探しが目的ではない。元少年犯・瑛太と元ジャーナリスト・生田斗真の中心に、誰もが贖罪の念を背負っている。その意識がいつどんな形で噴出し、周囲を巻き込んでしまうのかという不穏さが全編を覆い、重苦しさを引きずりながら生きる意味を問いかける。感傷やヒューマニズムは通用しない。『64 −ロクヨン−』的なエンタメ性には欠けるが、瀬々敬久が追い続ける「犯罪」をモチーフに社会の闇を炙り出す群像劇として『ヘヴンズ ストーリー』以来の成果を挙げている。

  • ボストン ストロング ~ダメな僕だから英雄になれた~
    テロ被害者の苦悩に寄り添い、立ち直るまでのリアルな軌跡
    ★★★★★

     テロ被害を描く庶民のドラマは、とかく「団結」に向かいがちだが、ボストンマラソン爆弾テロ事件をモチーフとした本作は、別の道を行く。主人公は実在の人物。両脚の膝から下を失った彼は、欠点の多いごく普通の青年だが、事件渦中の目撃証言が犯人逮捕に貢献する。不自由を強いられる暮らしぶりやメディアに注視される葛藤に、キャメラはとことん寄り添い、ジェイク・ギレンホールの苦悩の演技が真に迫る。テロへの憎しみを煽ることなく、ナショナリズムを強化するわけでもない。身体にばかりでなく、心に深い傷を負った人間がなんとか立ち直り、打ちひしがれた多くの人々にとっての英雄としてのイコンを引き受けるまでの軌跡に、虚飾はない。

  • ランペイジ 巨獣大乱闘
    「三大巨獣対ドウェイン・ジョンソン シカゴ最大の決戦」
    ★★★★★

     怪獣と呼ぶほどには巨大化しない動物が、都市破壊を繰り広げる白昼のビジュアルがポイント。一撃でビルディングを倒壊させることは出来ず、徐々にカタルシスを得るというブロック崩し的な原理。それもそのはず、原案は80年代アーケードゲーム。ゴリラ、オオカミ、ワニが異常かつ凶暴な進化を急速に遂げるという科学的エクスキューズは付けたものの、批評性など匂わせず脚本のIQは高くない。ただし、ドウェイン・ジョンソンと白ゴリラの交流のドラマは手堅くエモーショナル。霊長類学者なのに元特殊部隊というムチャな設定の筋肉野郎ジョンソン様が、兵器や超人さながらの活躍を見せるところが最大の見どころ/笑いどころである。

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