清水 節

清水 節

略歴: 映画評論家/クリエイティブディレクター●ニッポン放送「八木亜希子LOVE&MELODY」出演●映画.com、シネマトゥデイ、FLIX●「PREMIERE」「STARLOG」等で執筆・執筆、「Dramatic!」編集長、海外TVシリーズ「GALACTICA/ギャラクティカ」DVD企画制作●著書: 「いつかギラギラする日 角川春樹の映画革命」「新潮新書 スター・ウォーズ学」●映像制作: WOWOW「ノンフィクションW 撮影監督ハリー三村のヒロシマ」企画・構成・取材で国際エミー賞(芸術番組部門)、ギャラクシー賞(奨励賞)、民放連最優秀賞(テレビ教養番組部門)受賞

近況: ●「シン・ウルトラマン」劇場パンフ執筆●ほぼ日の學校「ほぼ初めての人のためのウルトラマン学」講師●「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」劇場パンフ取材執筆●特別版プログラム「るろうに剣心 X EDITION」取材執筆●「ULTRAMAN ARCHIVES」クリエイティブディレクター●「TSUBURAYA IMAGINATION」編集執筆

清水 節 さんの映画短評

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  • 万引き家族
    目を背けていた、この国の犠牲者達の素顔を看破する、切ない寓話
    ★★★★★

     ひとつ屋根の下、三世代6人が身を寄せ合い喜怒哀楽を共にする――自ら選んだ絆で繋がり秘密を共有し、支え合うその姿が、失われた豊かな家庭に重なりアイロニカル。生きるため家族のふりして泳ぐこの国のスイミー達。ささやかな年金、下りない労災、貧しさのワークシェア…根底にあるのは政治への強い怒り。万引きという最終手段は、弱者を切り捨てた社会への抵抗である。実の親に放擲された子への眼差し、淋しさを紛らわす風俗店の膝枕、夕立ちのなまめかしい発情そうめん、花火の上がらない空を見上げる夜…全てが切なく愛おしい。この寓話を観もせず“犯罪を肯定的に捉えた日本の恥”と断ずるリテラシーが劣化した声こそ、この国の恥部だ。

  • デッドプール2
    爆笑と涙の波状攻撃!無秩序で繋がるアウトロー達の疑似家族映画
    ★★★★★

     マーベルの治外法権を存分に生かし、グリーン・ランタンの黒歴史を抱える主役がDCを揶揄する権限を発揮して、傑作が生まれた。有終の美を飾った盟友ウルヴァリンに執念深い対抗心を漲らせ、T2×X-MEN×アベンジャーズという最強アクションを酒の肴に、アナ雪までいじりまくって、まさかのファミリームービーを標榜する。なるほど無責任ヒーローの名をかなぐり捨て、差別と虐待をとことん憎んで怒れる少年を救うべく、グロいバトルとディープなパロディと下品なネタで笑わせて泣かせ、居場所を求めて血よりも濃い無秩序で繋がるアウトローどもは、カンヌもたじろぐ「ドン引き家族」かもしれない。嗚呼、『愛のイエントル』が恋しい。

  • 軍中楽園
    歴史に翻弄された男女の営みを闇に埋もれさせまいとする抒情詩
    ★★★★★

     中国との戦いの渦中、台湾統治下の島にあった慰安所。慰安婦達と兵士達の刹那にして甘美な関係の悲喜こもごも。陽射しは柔らかくキャメラは流麗で砲撃の光さえも花火のよう。全ては純情な青年兵の追想ゆえ。謎めく過去を抱えたアンニュイな女性の魅力が映画を牽引し、大人への通過儀礼が描かれる。台湾でも議論を呼んだ2014年製作の本作がようやく公開されるのは、朝日新聞が慰安婦問題の誤報を認めて謝罪し、騒然とした年から時間をおく必要があったからか。女性描写が一面的だと批判することは容易だが、歴史に翻弄された人々の営みを闇に埋もれさせまいとするこの抒情詩は、不条理な現実を見つめ直す上でひとつの視点を与えてくれる。

  • GODZILLA 決戦機動増殖都市
    メカゴジラの変容は斬新だが、視覚化に成功したとは言い難い
    ★★★★★

    既存キャラの新設定とヘヴィな世界観で、スクリーンに惹き付ける力は十分だ。怪獣映画の醍醐味である都市破壊を、原初の世界に戻った2万年後では観られないと思いきや、メカゴジラの意外すぎる変容増殖は、そのニーズにも応える斬新なものだ。だがそうした設定の視覚化は、アニメならではのカタルシスを得られるものではなく、残念。ただし、人智を超えたゴジラに対峙し葬り去るには、“人ならざるもの”にならねばならないという主人公に課せられた命題は、非常時に強大な敵に立ち向かう際の「特攻」というこの国の過去のむごい選択に批評性を与えつつ、複数怪獣が入り乱れるであろう地球規模の次回完結編へ期待を持たせる。

  • ゲティ家の身代金
    エイリアン前日譚にも似た冷酷さに魅入られた巨匠スコットの怪作
    ★★★★

     名家子息がテロリストに誘拐された事件をめぐる70年代初めの実話。リドリー・スコット監督作としては、我が子を救うべく奔走する母の物語という観点から『テルマ&ルイーズ』を始めとするヒロイン映画の系譜を思わせもするが、何より孫のための身代金支払いを拒否した老石油王の存在こそが際立つ。あわや、犯人側に感情移入したくなる程のヒューマニズムの欠如。クリストファー・プラマーの演技は、富豪の内面を多義的に表現してはいる。だが、決して犯人に屈しないスタンスの先駆けを称揚するわけではない。ふと思い出すのは、2本の『エイリアン』前日譚の感触だ。キーワードは冷酷。スコットは、人間性を超えた無慈悲さに魅入られている。

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