略歴: 映画評論家/クリエイティブディレクター●ニッポン放送「八木亜希子LOVE&MELODY」出演●映画.com、シネマトゥデイ、FLIX●「PREMIERE」「STARLOG」等で執筆・執筆、「Dramatic!」編集長、海外TVシリーズ「GALACTICA/ギャラクティカ」DVD企画制作●著書: 「いつかギラギラする日 角川春樹の映画革命」「新潮新書 スター・ウォーズ学」●映像制作: WOWOW「ノンフィクションW 撮影監督ハリー三村のヒロシマ」企画・構成・取材で国際エミー賞(芸術番組部門)、ギャラクシー賞(奨励賞)、民放連最優秀賞(テレビ教養番組部門)受賞
近況: ●「シン・ウルトラマン」劇場パンフ執筆●ほぼ日の學校「ほぼ初めての人のためのウルトラマン学」講師●「るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning」劇場パンフ取材執筆●特別版プログラム「るろうに剣心 X EDITION」取材執筆●「ULTRAMAN ARCHIVES」クリエイティブディレクター●「TSUBURAYA IMAGINATION」編集執筆
サブカル百花繚乱の明快なVRアドベンチャーに込められたものとは何だろう。特撮・アニメ・ゲームに育まれ、想像力を全開させて「オアシス」を創設したハリデーは、スピルバーグの分身だ。そこは、オタクが市民権を得てカルチャーの先端へ躍り出た過去30年を総括する祝祭空間そのもの。資産として群がる狡猾な大人達ではなく、イノセントな少年少女のためにこそ存在すべきだという健全な思想。互いの顔も名前も知らない空間で出会い絆を深めていく若者達にとって、もはや虚構は現実逃避の場ではなく、自分を見つめ直し現実を変えうる力でもあるという大いなる肯定感。ただし世界とセカイのバランスをも語るところにスピルバーグの成熟を観た。
むごたらしい爆破テロで夫と子を奪われたヒロイン。法は犯人を裁けなかった。怒りと悲しみの矛先はどこに向かえばいいのか。選択肢はいくつもあった。上告する、自分を誤魔化して生きる、命を絶って苦しみから逃れる、犯人を殺し溜飲を下ろす、さらに…。ヒロインが辿り着いたひとつの答えを、倫理的に許されないとジャッジすることは容易だが、それでは、「眼には眼を」を乗り越え、繰り返される憎しみを自らの手で断ち切ろうと苦悩した心の旅を、何も観ていなかったことになる。容認できないまでも深く理解できるのは、負の情念に苛まれたことがある証か。彼女の決断には、理性か感情かという表層的な二元論を超えた、境地と可能性がある。
失われたNY。経済至上主義の波に気圧され凡庸に堕したこの街で、青年は現実に押し潰されることなく、如何にして情緒豊かな大人へと成長するか。父の浮気、その愛人との逢瀬、闖入者としての隣人からの助言。文化・芸術の残り香が青年を大人へと導く、粋な神話である。マーク・ウェブ監督はサイモン&ガーファンクルを挿入して現代版『卒業』を示唆するが、日本人としては、ありきたりな日々に別れを告げ、ルーツを見つめ自我に目覚めるという意味において、ニューヨーカー版「山田太一『早春スケッチブック』」的要素も濃厚だと伝え、観客層を拡げたい。
サム・メンデスの『アメリカン・ビューティー』が戯画的すぎるように思え、ナンニ・モレッティの『息子の部屋』が優しすぎるように感じるほど、ロシアの鬼才アンドレイ・ズビャギンツェフが、家族の亀裂を見つめる眼差しは冷徹極まりない。夫婦のそれぞれが別の相手との関係に希望を見出す中、忘れ去られた小さな息子の存在が浮き彫りになってくる。プーチン体制の支配下で息苦しさが募る人々をテレビが映し出し、崩壊した家族の肖像が、社会の危機として普遍化されていく。両親の諍いが子を失踪させるという現実はわが国でも多発しているが、ここでは寒々しい光景、必死の捜索、そして重い顛末から、強い怒りと深い絶望が伝わってくる。
テクノロジーが可能にした「監視」というモチーフは、遙か異国の不審者をクリックひとつで一掃する倫理観を問う『ドローン・オブ・ウォー』や『アイ・イン・ザ・スカイ』を生んだが、この映画はプライバシーへの介入という問題を善意で捉え、ファンタジーに反転させる。北アフリカの砂漠地帯を監視するアメリカの青年が、失意の女性と出会う。間を取り持つのは、高性能の眼を有し悪所でも移動可能で多言語翻訳可能な、蜘蛛型監視ロボット。男女を引き合わせるきっかけとなる、事件をめぐる感情描写は疎かだ。しかし時空を超える『君の名は。』よりも現実的な、奇跡の出会いは清々しい。分断をも乗り越える、空想ラブロマンスの佳作である。