略歴: 雑誌編集者からフリーに転身。インタビューや映画評を中心にファッション&ゴシップまで幅広く執筆。
近況: 最近、役者名を誤表記する失敗が続き、猛省しています。配給会社様や読者様からの指摘を受けるまで気づかない不始末ぶりで、本当に申し訳ありません。
鉱山に閉じ込められた作業員を救うための機材を届けるためトラック野郎がアイスロードを疾走。凍った川を使う冬季限定の道路が舞台で、溶け始めた氷越しの映像が道中の危険を示唆する。が、怖いのは自然だけではなかった!? 主人公マイクと弟が失業中で、命懸けの運送の成功報酬が20万ドルなので、Y・モンタン主演の名作『恐怖の報酬』を思い出す人も多いだろう。しかしサスペンス色は薄く、アクション演技で物語を押し進めるB級アクションだ。突っ込みたい部分も少なくない。しかし、これはリーアム・ニーソン映画! トラックを運転しながら襲いくる敵と格闘し、極寒の氷上を駆ける彼の、御年69歳とは思えないタフさに驚く。
自閉症の息子と年老いた母親の物語は、人間が持つ不寛容や差別意識を浮かび上がらせるものの、柔らかな着地点に落ち着く。いちばん感動したのが自閉症者の描写だ。主人公の忠さんはマイ・ルーティンを守って生活し、独自のコミュニケーション術を使う。塚地武雅が真に迫る演技で、子どものまま中年になったような忠さんを血肉の通った存在にしている。加賀まりこが演じる、明るく振る舞いながらも息子の将来を案じる母には泣かされた。忠さんと道にはみ出した梅の木を徐々に受け入れる隣人は、物事の見方や視点を変えて他人と向き合うことの大事さを教えてくれる。色々学べるけれど、まったく説教臭くないのもいい。
ソウルの女王、アレサ・フランクリンの人生を映画化するのに、前半生だけとはいえ142分は短すぎた。スターダムを確立する過程での紆余曲折始め、アレサの人生が波瀾万丈すぎるのだ。両親の不仲が幼い少女に与えた影響から始まり、支配的な父親やDV夫との関係性、キング牧師への協力、スターにありがちなストレスとの戦いなどなど。先に見た同じ題材のTVシリーズと比較してしまい、彼女の公民権運動への貢献にはもっと時間を割いてもよかったのではないかと感じた。とはいえ、生前にアレサがヒロインに指名したJ・ハドソンは大熱演。アレサの魂が乗り移ったかのようなソウルフルな歌唱力をただひたすらリスペクトするのみ!
昭和26年に建てられた実家を「昭和のくらし博物館」として残した小泉和子氏の母親スズさんを語り部として、かつて日本人が営んでいた暮らしぶりを伝える。「布団がお手製?」「着物はほどいて洗うの?」と目から鱗の連続で、コンビニ三昧の日々を猛省。クリック一つで欲しいものが買える現代は便利だが、スズさんが伝える暮らしの知恵も知っておくと心が豊かになるような気がする。掻巻やお手玉は人生に不可欠ではないにしても、日本人が培った文化の一部であり、映像記録として残した小泉氏の英断に感謝。と同時に裁縫の課題を一つも完成できなかった不器用な私を指導してくれた家庭科の先生に謝罪したい気持ちでいっぱいに!?
香港ニューウェーブの旗手アン・ホイ監督の人生に焦点を当て、そのキャリアや人となりを明らかにする。まずホウ監督がおおらかで魅力的だ。ツイ・ハークやアンディ・ラウら多くの映画人が彼女の創造性や人柄を語り、彼女自身もさまざまな質問に率直に答える。また撮影現場で切れ、宣伝ツアーの過密スケジュールにイラつく姿も挿入され、気取らない性格なのがよくわかる。アートとエンタメを自由に行き来しながら、業界内の尊敬を勝ち得てきた彼女はまさに唯一無二の存在! 彼女の柔軟な姿勢は香港人らしさであり、愛する香港が時代に応じて変わっていく姿を撮ることで貢献したいと語る70代のホイ監督のバイタリティに痺れた。