略歴: 雑誌編集者からフリーに転身。インタビューや映画評を中心にファッション&ゴシップまで幅広く執筆。
近況: 最近、役者名を誤表記する失敗が続き、猛省しています。配給会社様や読者様からの指摘を受けるまで気づかない不始末ぶりで、本当に申し訳ありません。
NYの画商が発見した絵画がダ・ヴィンチ作「サルバトール・ムンディ」と追認される過程と新発見に群がる富裕層の財力やアート界の闇、国家間の駆け引きをスリリングに暴き出す。権威ある人物のお墨付きで価格が急上昇する芸術の本当の価値は?と疑問が浮かび、アート界における野心や私服を肥やすために傑作を利用した人物の多さに驚愕する。監督はさまざまな人物に取材し、アトリビューション(作者の特定)が曖昧だった事実を浮かび上がらせる。匿名で登場するフランス政府関係者が芸術の最後の砦はルーブル美術館というが、同館がダ・ヴィンチ作と証明した文書を絵画の所有者であるサウジの王子に渡したとの説もある。もう、何が何だか?
老いた父親と息子の複雑な関係を描く物語は、兄弟に捧げられているのでV・モーテンセン監督の自伝的要素も含まれているのだろう。考えさせられる要素が多い人間ドラマだ。父親は差別主義者のホモフォビアで、人間としても最悪だ。認知機能が低下した彼の記憶混在がフラッシュバックとなり、元から無知な独善主義者だったという事実が明らかになる。愛を伝えることができず、人々から距離を置かれる悲しい老人の行く末は一つしかないのかもしれない。人間同士は理解し合うのが理想とは思うが、気持ちを伝えない人を理解するのは難しい。遺伝子を共有していても所詮は他人だから、親子が分かり合えるというのは幻想に過ぎないとよくわかる。
勤勉に働いて財を成したカンボジア難民テッド・ノイがドーナツ業界に残した功績に驚く。お馴染みのピンクの箱は彼の発案だし、修業先の大手チェーンのノウハウも上手に利用。カリフォルニア州のドーナツ店のほとんどがカンボジア系アメリカ人経営なのもテッドが多くの同胞に手を差し伸べた結果で、勲章もゲット。しかし好事魔多し!? 単なる“いい話”で終わらせないA・グー監督の視点がいい。そしてテッドのドーナツ愛を受け継ぐ移民2世がドーナツ界に新風を吹き込み、チェーン店と勝負している現状にホッとさせられた。監督はまた移民に対する歴代大統領の姿勢も明らかにし、アメリカが移民国家であることを再確認させる。
世界中に存在する難民が直面する不平等や現代アート界への風刺と愛を巧みに融合させた人間ドラマだった。愛に浮かれて人生を棒に振りかけた挙句、愛を貫くために前代未聞の決意をする青年サムの旅路はさまざまな問題を提起する。背中にタトゥーを入れたことでアート作品に変化したサムがシリア難民では考えられない豪華なホテル暮らしを始め、お肌もケアされ、他人の妻となった恋人とも再会。しかし彼が手に入れたのは、本当の自由なのか? アートならば人間も売買可能という仕組みに驚愕。鏡と白壁のギャラリーが映る冒頭の映像で物事の二面性や認識のズレを観客に感じさせるのをはじめ、計算された映像も素晴らしい。
脱北者ジナが韓国で自分の居場所を見つけようと足掻く姿を追う人間ドラマ。生きるのに必死な脱北者が就けるのが低賃金労働だったり、脱北者を見下す韓国人がいたり。さらには父親を救うための賄賂も必要!? 祖国を出てもなお戦わなければならない脱北者の現実が浮かび上がる。孤独なジナがボクシングとの出会いをきっかけに徐々に心のガードを下げて周囲と繋がる展開は予想通りだが、イム・ソンミの好演で真実味が増す。怒ったような顔の彼女が笑い始め、号泣する場面ではもらい泣きしそうになった。ジナと母親の複雑な関係やジム仲間との恋愛なども盛り込まれ、韓流はアートハウス作品でもきちんとドラマティックと納得。