略歴: 雑誌編集者からフリーに転身。インタビューや映画評を中心にファッション&ゴシップまで幅広く執筆。
近況: 最近、役者名を誤表記する失敗が続き、猛省しています。配給会社様や読者様からの指摘を受けるまで気づかない不始末ぶりで、本当に申し訳ありません。
世界公開時にアジア人蔑視なセリフが問題視され、マイナスからのスタートだったが、人気ゲームの世界観を実写で作りたい監督の試みは成功していると感じる。ディアブロスや蜘蛛を思わせるネルスキュラ、空飛ぶ竜ことワイバーンといったモンスターたちが役者よりも華々しくスクリーンで大暴れ。こちらが主役? モンスター世界の造形もきちんと作り込まれていて、大スクリーンで迫力を体感するのがお勧めだ。ヒロインを演じるM・ジョヴォヴィッチは相変わらず美しく、アクション演技も器用にこなしていて、オタクな夫のために腹を括ったなという頑張りぶり。多分、シリーズ化を目指しているのでしょうが、果たして?
自閉症の男女とその家族を追いながら、当事者の日常や彼らを取り巻く社会状況が綴られる。東田直樹が14歳の時に書いたエッセイからの言葉がナレーションとして挿入されていて、自閉症者固有の視覚情報や聴覚情報、言語感覚、こだわりや反復による安心感が実際にどのようなものなのかが良くわかる。当時者の視点や聴覚を意識した映像も美しい。東田の本に出会ったことで自閉症の息子の世界を理解できた作家D・ミッチェルはじめとする親たちの不安にもカメラを向けており、切なくなる場面も。が、この現実があるからこそ映画やドラマではかっこよく描かれがちな自閉症者の真の姿を理解することができるのだ。多くの人に見てほしい。
家財を失うという危機的状況に陥ったらどうする?と観客に問う人間ドラマだ。主人公ファーンは、最低限の生活必需品と思い出の品を積み込んだ車で旅に出る。生きるには低賃金の季節労働を続けるしかないが悲惨感はなく、さまざまな土地を体感する彼女はアメリカが誇るフロンティア・スピリットさえ漂わせる。困った仲間は助けるけれど、深く踏みこまないノマド仲間の距離感も心地いい。本物のノマドが語る貧困の原因も非常にリアルで、困窮者を支援しない国家体制に問題ありと思うが、しがらみから解放される居場所はon the roadと自覚するファーンの決意に憧れる。私にはとても真似できないし。
ヒップホップ文化の萌芽をグラフィティの角度から捉えたドキュメンタリーで、サブカルチャーを生み出した若者vs新しい文化を摘み取る大人の図式が見える。現代アートへと続くグラフィティ文化を作った若きアーティストの考えもそれぞれに異なり、黎明期の混沌と勢いが伝わってくる。彼らの主張もスタイルも個性的でユニークだし、サントラもクール。80年代ファッションも今見ると新鮮。自己主張だった落書きがやがて権威への反抗などのメッセージ性のあるものに進化し、ムーブメントがアートへ昇華したと納得。後にスパイク・リー監督やパブリック・エネミーも流用した 反抗の象徴“Dump Koch“の起源もわかって、ユーレカ!
「人魚姫」の原型とも思える水の精の物語を現代に焼き直した、サスペンスフルな恋愛ドラマだ。恋人に捨てられて静かに怒りながらも仕事を立派にこなす冒頭で主人公ウンディーネが非常に不思議な女性と気づく。彼女は人間なの? それとも? 謎めいた存在感を発揮するP・ベーアの好演と、彼女が動くたびにかすかに聞こえる水音や硬質な映像がミステリアスなムードを演出すると同時に不穏な空気も醸し出す。何が起こるのか? 恋人の裏切りと自身の優柔不断さ故に真の愛を見失ったヒロインの選択と彼女に愛を捧げられた青年クリストフの物語が向かうのは何処? 超自然的とも言える展開もあるが、深い余韻が残る。