略歴: 雑誌編集者からフリーに転身。インタビューや映画評を中心にファッション&ゴシップまで幅広く執筆。
近況: 最近、役者名を誤表記する失敗が続き、猛省しています。配給会社様や読者様からの指摘を受けるまで気づかない不始末ぶりで、本当に申し訳ありません。
医食同源の中国料理に太極拳、白夜やトナカイ肉にサウナが一堂に介したら? A・カウリスマキ監督が中国とフィンランドの文化を絶妙にミックスさせて、微笑ましい人間賛歌を作り上げた。美味しい料理は国境を易々と超えるとはいえ、フィンランド人が『かもめ食堂』よりも素早く中華料理に慣れ親しむのはちと悔しい。でも主人公のチェンは上海の有名シェフだし、体にいい料理と聞いてはね。広い心で異文化を受け入れる登場人物に嫌な人はおらず、見ていて気持ちがほんわか優しくなる。それにしても、中国人観光客のバイタリティには驚く。舞台のポポヤンヨキはフィンランドでも相当な田舎らしいが、そのうちチャイナタウンができそうな勢いだ。
あややのMVで人生が変わった青年を軸にした男子の友情物語は、主要キャラがアイドル好きというだけで普遍的な青春ものと変わりない。短い青春を推しに捧げ、惜しげもなく愛を注ぐとともに同好の士と熱きアイドル愛を語らう。一方的な愛は不毛に思えるが、好きを一途に貫く姿に清々しさも感じた。いろいろとトラブルを持ち込み、仲間の恋人に横恋慕するかなり面倒くさいコズミンをもおおらかに包み込む男たちの絆が胸に響いた。松坂桃李にオタク役はハードルが高すぎると思いきや、意外にも役にハマっている。こじらせまくったコズミン役の仲野大賀からも目が離せない。女子にはモテないオタクのピュアな愛とプライドを感じさせる傑作だ!
フランスの法廷ドラマを見たのはこれが初めてで、フランスの司法に興味がわいてきた。まず主人公ノラの設定に驚く。彼女は妻の殺害容疑で告訴された大学教授の無罪を確信し、第二審で弁護士に協力して確信を証明しようと奔走するのだ。審理無効になりそうでヒヤヒヤした。法律とは無縁ながらも信念を持って証拠を探り、デマゴーグの不正を暴くノラはまさに、フランス版エリン・ブロコヴィッチといってもいい。弁護士の最終弁論も含めて、正義を感じる。しかしノラと検察側の確信が真逆だったこと、検察側がそう考えるに至った経緯が明らかになっても、真実は闇の中。裁判できっちり白黒がつくというのは、ハリウッドが作り上げた幻想なのだね。
アニメから実写へ切り替わるオープニングからワクワクし、ヒロインが人魚という段階で心のスイッチがファンタジー・モードに切り替わる。人間を恨む人魚と恋に耐性がある風変わりなガスパールの恋模様、おせっかいな隣人と復讐に燃える女医の突拍子もない絡みも不思議にすんなりと頭に入る。監督のセンスのいい演出のせいか。ガスパールの宝物である本がそのまま実写なったような映像美が印象的で、おしゃれなインテリアやレトロなファッションを見るだけでも楽しい。役者は全員ハマっていて、特に隣人役のロッシ・デ・パルマから目が離せない! そして本筋とは無関係だが、トゥクトゥクを借りパクされた男性のその後が気になった。
オーソドックスな西部劇にトランプ政権下で明らかになったさまざまな問題を投影させている。主人公は先住民に誘拐された少女を家に送り届ける使命を自らに課す退役軍人キッド。二人の前に立ちはだかる人種差別主義者や極端なイデオロギーを掲げる人間などがMAGA派にしか見えず、アメリカの民主主義は砂上の楼閣でしかなかったと思えてくる。だからこそ“人間としてやるべきこと”をまっとうするキッドの決意と利他的な行動が心にしみる。私もこうありたい! 融和を目指すアメリカ、いや世界にとって一種の希望のような作品だろう。アメリカの良心ともいえるT・ハンクスはまさに適役だし、少女を演じるH・ゼンゲルの存在感が光っている。