略歴: 雑誌編集者からフリーに転身。インタビューや映画評を中心にファッション&ゴシップまで幅広く執筆。
近況: 最近、役者名を誤表記する失敗が続き、猛省しています。配給会社様や読者様からの指摘を受けるまで気づかない不始末ぶりで、本当に申し訳ありません。
親の都合でアフリカに移住した少女ミアがホワイトライオンと強い絆を培いながら居場所を見出す一種のカミング・オブ・エイジもの。そこに動物愛護の強烈なメッセージを組み込まれ、トロフィー・ハンターに対して常々「素手で戦え」と思う身には深く沁みた。殺すために繁殖させる人間のエゴには怒りしか感じない。3年を越す撮影でミア役のダニア・デ・ヴィラーズとライオンが本物の絆を培ったのは一目瞭然。彼女とライオンとの共存ぶりがとても自然だ。いかにもな悪役が登場し、ペット用にビッグキャットを繁殖させていたタイガー・キングはこいつよりはマシかもと思わせる。クライマックスはドラマティックで、ライオンの身を案じて血圧上昇。
山内マリコ作品のファンとしても期待を裏切られない面白さで、小説よりしっとりと仕上がっている。松濤の箱入り娘・華子と地方出身のキャリア女性・美紀を軸にさまざまな人生観を持つ20代後半の女性が登場。結婚できずに焦ったり、与えられた人生を謳歌したり、才能を活かして自立したり。女性たちが感じる外圧と内圧に「わかるよ」と共感。華子にかけられたある種の呪縛を解くのは? 異種のものに出会い、新たな世界を拓く化学反応のような関係性が清々しい。門脇麦と水原希子の組み合わせも素敵だ。また日本に厳然として存在する社会階級、家柄という頸木のある男性の結婚観もよくわかる。若い女性にとっては、人生教科書となるはず。
ISに拉致されたデンマーク人カメラマンと、身代金を要求された家族の試練が緊張感たっぷりに描かれる。手持ちカメラや照明を制限したドクマ95風な映像もあり、拉致被害者の過酷な状況が生々しい。N・A・オプレヴ監督は心身を疲弊させる拷問も容赦なく描写し、被害者の苦しみを見るだけでも胸が痛む。実話なので斬首されたアメリカ人ジャーナリストやジハーディ・ジョンらしき男も登場し、緊迫感が増す。“テロリストとは交渉しない”国家方針に手足をもがれる家族の苦悩も想像を絶する。戦争の真実を伝えるジャーナリストの使命感を逆利用する誘拐ビジネスはもう一つの戦争だし、民間人が被害者という点で戦争犯罪だと憤る!
冴えない少女ミラとチンピラ青年の恋物語と書くと少女漫画っぽいが、描かれるのは単なるウキウキではない。登場人物はそれぞれ屈折した思いを抱えていて、ミラの初恋がそれらを解き放っていく過程に説得力あり。16歳にして相手を丸ごと受け入れる懐の深い愛情を示すミラに神々しさも感じた。綿密に計算された映像や色彩パレットのおかげで観客はミラの感情を常にキャッチでき、彼女がどんどん逞しくなるメンタルを実感。「愛が人を強くする」と信じさせてくれたS・マーフィ監督は、これが長編デビュー。秀逸なストーリーテリングの才能は期待大! ミラ役のイライザ・スキャンレンの無垢な雰囲気もキャラクターをより魅力的にした。
人生崖っぷちな人々が金に踊らされ、自分でも知らなかった獣性を目覚めさせる姿が身につまされる犯罪ドラマだ。事業に失敗しバイトで家族を養う中年男性もDV被害者の主婦も恋人に翻弄されるイケメンも普通の庶民で、だからこそ藁をもつかむ思いで法を犯す彼らに同情してしまう。残虐な金融業者や汚職刑事が最悪だから、尚更だ。複数のキャラを巧みに関わらせ、無関係に思えるエピソードが繋がっていくので一瞬たりとも気が抜けない。キム・ヨンフン監督はこれが長編デビューというが、チョン・ドヨンやチョン・ウソンはじめとする役者やDP、美術チームら一流の映画人の才能を100%以上発揮させている。