略歴: 雑誌編集者からフリーに転身。インタビューや映画評を中心にファッション&ゴシップまで幅広く執筆。
近況: 最近、役者名を誤表記する失敗が続き、猛省しています。配給会社様や読者様からの指摘を受けるまで気づかない不始末ぶりで、本当に申し訳ありません。
飛行機事故で生き残った少年のサバイバルと心象風景をシンプルな絵で表現しているが、ジブリやピクサーにも負けてない傑作。セリフがないので見る側には想像力が必要だが、逆に少年が遭遇する黄色い小鳥や水辺に集まる猫、砂漠のオアシスや氷のような湖、そして少年を追いかけてくる黒い怪物が何を意味しているのかを自由に考えられる楽しみにつながっている。少年が乗り越えるハードルごとにチャプターが分かれているのはゲームっぽいが、監督・脚本・編集・音楽を独力で行なったG・ジルバロディス監督はまだ20代とのことで、納得。とんでもない逸材の出現だし、今後の活躍が楽しみだ。
断捨離で暮らしをすっきりさせるはずが、逆に捨てられなくなった経験がある人は少なくないはず。北欧でミニマリズムを学んだヒロイン・ジーンも捨てるはずのものにまつわる思い出や人間関係に葛藤することになる。ものを通じて別れた恋人に向き合い、捨てられる立場の悲しさに思い至ったり、借りっぱなしのものを返却して友人と和解したり。『バッド・ジーニアス』でも好演を見せたチュティモンは表情演技が上手で、ジーンの心の揺れを巧みに表現している。ジーンと別れた夫が残した品々に固執する母親の折り合いの付け方が気にはなったが、余韻が残るラストが素敵だ。それにしてもこんまりの “ときめき片付け術”は世界的に人気だな。
エロティックなのにユーモラスでもある写真で一世を風靡した写真家のドキュメンタリーは、H・ニュートンの茶目っ気溢れる人となりや芸術性がよくわかる作品だ。ニュートン自身のインタビューに相変わらず美しいナジャ・アウマンや怖さが減ったグレイス・ジョーンズといったミューズやアナ・ウィンターらの証言が加わり、彼の考える美へのこだわりが明らかになっていく。大事なのは胸と脚と高慢な態度と言い切るニュートン潔い! 女性を性の対象としているとスーザン・ソンタグに非難されるが、高身長のヌード女性が睨みつけるような顔でポーズを取る写真のメッセージはそんな単純なものではなかったこともよくわかる。
ストリーミングサービス界の雄NETFLIXの創生とブロックバスターとの攻防、快進撃の秘密を関係者の証言で追っていて、臨場感たっぷり。シリコンバレーのスタートアップ会社の成功譚がビジネス面とテック面でわかりやすく語られ、誰もがメンションするのがR・ヘイスティングというヴィジョナリーの存在。スティーブ・ジョブズもその才能を認めていた創業者が強力なライバルが増えているNETFLIXを今後どう展開させるのかがさらに気になる仕掛けとなっていた。ブロックバスターにはお世話になっただけに、オールドスクールな実業家にとどめを刺された同社の終焉が実に悲しく、老兵はただ去りゆくのみなのね。
大物歌手グレースのアシスタントとして、24/7で雑用に追われるマギーの夢を描く少女漫画のような展開。ダコタ・ジョンソンがヒロインなので歌手を目指すかと思ったら、音楽プロデューサーを目指す音楽オタクという設定が今どきかも。マギーの情熱が立場ゆえに失敗できないグレースのやる気とワケありな天才シンガー青年のハートに火をつける展開も読めるので、もう少し演出を捻って欲しかった。ただし驚くべきは、業界内外で注目される俳優K・ハリソンJr.の歌唱力。男性ではなかなか難しいハイトーンボイスに度肝を抜かれた。グレースを演じるT・E・ロスともどもヒロイン以上の存在感を発揮する。