略歴: 雑誌編集者からフリーに転身。インタビューや映画評を中心にファッション&ゴシップまで幅広く執筆。
近況: 最近、役者名を誤表記する失敗が続き、猛省しています。配給会社様や読者様からの指摘を受けるまで気づかない不始末ぶりで、本当に申し訳ありません。
少年犯罪に巻き込まれた息子を持つ両親の真逆の望みのどちらも理解できる。しかもどちらが叶ったとしても悲劇的な結果が待っていると重苦しい気持ちになるが、見続けずに入られない作品だ。父親と母親、優等生な妹それぞれの思いがきちんと伝わってきて、それぞれに違いはあるものの、行方不明となった規士への深い愛を感じさせる。役者の力によるところが大きく、家族を演じる堤真一と石田ゆり子、清原果耶の演技が素晴らしい。本当の家族のように見えてくる。事件の全貌が不明なうちに悪意ある噂で殺人犯の家族扱いされる展開やスクープ狙いの記者の接近はドラマを盛り上げるために必要とは思うが、ややチープ。
幸せな生活を送っていたはずの女性ジヨンが本人も気づかぬまま精神に歪みを生じてしまう。と書くとホラー映画っぽいが、女性の人格を尊重することを再確認させる啓蒙作品だ。男につけまわされても「お前に隙があるから」と父親から叱責され、就職先では“腰かけ”と思われて重要な仕事は任されない。結婚しても夫の家族に気を使い、“私”はいつも二の次。女性であるがゆえに体験する差別や理不尽に疲弊するヒロインに自身を重ね、共感する。21世紀になっても旧態依然のままの社会構造が女性を疲弊させるんだよな~。ただジヨンの夫がとても思いやりがあり、ヒロインだけでなく観客にとっても一筋の光明となる。コン・ユがいい仕事しています。
金正男暗殺を日本メディアはつぶさに追ったな~と感心するほど新情報は少ないとはいえ、殺害を実行した女性二人の生い立ちや弁護チームの立場と思想が加わることでショッキングな事件に厚みが加わっている。特に弁護士たちの勇敢さに拍手を送りたくなった。国と国との関係性でスケープゴートにされた被告を、(裏で糸を引いたと思われる)北朝鮮を糾弾して守ろうとしたその姿勢たるや! そして危険だなと思ったのは、北朝鮮の暗殺部隊に簡単に操られてしまった女性たち。金持ちになりたい、スターになりたいという夢を持つのはいいけれど、政治に無関心すぎるととんでもない事態に巻き込まれるという警告になる作品だ。
数奇な運命を辿る料理人と花魁の友情と成長を描く人気時代小説の映像化で、手堅い作りだし、出演陣が豪華! さらに衣装や美術、セットもしっかりと作り込まれていて、いい意味で製作・監督の角川春樹のパワーを感じる。北川景子、黒木華に続いて、澪を演じる松本穂香は健気で一生懸命な役柄がとても似合うし、見ていて応援したくなる雰囲気を醸し出している。また澪が心底気にかける幼なじみのあさひ大夫役の奈緒と松本の相性も非常によく、優しい関係性に心を打たれた。登場する江戸前料理も美味しそう。新型コロナで人との距離を取るのが当たり前になった今、人情味を感じられる映画ってホッとします。
祖母が癌と知った中国系アメリカ人女性ビリーの成長をコミカル&温かく描いている。ビリーが「アメリカ人すぎる(感情が顔にすぐに出る)」と母親に叱責され、帰郷を禁じられる時点でカルチャーや世代間のギャップを描く作品とわかるが、アジア人として共感する箇所が多い。がん告知に対する中国的な対応も理解できるし、祖母が担当医と孫のマッチメイクをする場面ににっこり。アジア人「ある、ある」だ。愛する家族を送る悲しみという不偏的なテーマを上質な笑いで包んだL・ワン監督のセンスに脱帽。見れば、家族や親戚の顔を思い出すかも。二つの文化で悩み、両方を背負うに至るビリーをオークワフィナが真摯に演じていて、★一つ追加!