略歴: 雑誌編集者からフリーに転身。インタビューや映画評を中心にファッション&ゴシップまで幅広く執筆。
近況: 最近、役者名を誤表記する失敗が続き、猛省しています。配給会社様や読者様からの指摘を受けるまで気づかない不始末ぶりで、本当に申し訳ありません。
水俣病を世界に知らしめた写真家ユージン・スミス&アイリーン夫妻の物語だが、想像もできなかった公害被害に遭った人々の姿をリアルに伝えた製作陣の姿勢に感動した。胎児性水俣病の娘に愛を注ぐ母親やカメラに興味を抱く青年といった被害者の日常はスミスの温かい視線そのまま。また被害を訴える地元住民と無責任としか思えない企業側の攻防も迫力たっぷりに描かれており、報道写真家としての夫妻の理念を受け継いだ実話映画になっている。アイリーン役の美波や公害と戦う活動家を演じた真田広之はじめとする日本人キャストの真摯な演技が素晴らしく、水俣病を知らない人でも本作を見れば当事者へ思いをはせるだろう。
聾唖の女性ギョンミと母親が連続殺人犯人に狙われる設定から恐ろしい。犯人が忍び寄る音が聞こえず、筆談やスマホなどのツールがないと意思疎通が難しいギョンミたちのハンデが大きすぎて、狡猾なサイコ野郎の魔の手が迫るたびに緊張感が増す。状況がわかっている観客は、気持ちを伝えられない母娘のもどかしさに共感し、焦燥感に駆られる仕掛けだ。ギョンミのPOV場面では音が消え、彼女を包む静寂がまた恐怖を煽る。しかしヒロインがタフなのが見どころで、心中でガッツポーズする場面も多々。夜の街をひたすら疾走した女優チン・ギジュの体力にも感心した。クォン・オスン監督は本作が長編デビューとのことで、今後も注目したい。
核戦争突入に怯えたキューバ危機を阻止したのはケネディ大統領の手柄と思っていたら、イギリス人紳士ウィンの暗躍があったと知ってびっくりの実話サスペンス。ソ連の高官ペンコフスキーと友情を培ううちに世界平和への気持ちが増す素人スパイと、裏切りこそが愛するソ連を救うと信じる高官の命がけの情報交換は結構、地味。しかし、007的なアクションとは無縁の諜報活動は緊張感たっぷりだ。大規模な作戦を当事者二人に焦点を当てた脚本家の決断とD・クック監督の丁寧な演出のおかげで二人を取り巻く公私の状況や物語に集中できる。役者陣の好演、時代感あふれる衣装や美術も魅力的。エピローグで流れる本人映像が非常に効果的だ。
高校のいじめ事件を追求するドキュメンタリー監督が究極の選択に直面。彼女の心の揺れから浮かび上がる、「正しさとは何か?」を問いかける社会派の人間ドラマだ。事件に関わった人々へ取材したヒロインが見出した真実とテレビ局側が求める真実のズレや情報化社会が生む同調圧力、伝聞情報の不正確さなどは我々が日々直面している問題だが、受け流してはいないか? 真実を覆い隠す危険性を実感させると同時に、他人に対して無関心であったり、インスタント正義を振りかざしたりする風潮への警鐘が鳴る。ジャーナリストの倫理がありがらも、守るべきもののために道を踏み外す由宇子を瀧内公美がリアルに演じている。
記憶を追体験できる近未来を舞台にしたミステリー風味のラブストーリー。死にかけた男の記憶で消えた恋人メイの過去を発見したニックの恋人探しという形で進み、時制を行き来しながら、謎と真実を明らかにしていく。『ウエストワールド』チームが関わった映像や美術はセンスがいいし、役者陣も好演。愛に執着するニックの苦悩を声と表情ににじませるジャックマンとファム・ファタールを演じるR・ファーガソンの相性抜群。彼女はジャジーな歌声も披露して素敵だ。結末は見る人によって感想が異なるだろうが、ニックの選択は女心をくすぐりそう。とはいえ、未来に希望が持てない今、幸せを感じられるのは過去の記憶だけなのかも。切ない。