略歴: 雑誌編集者からフリーに転身。インタビューや映画評を中心にファッション&ゴシップまで幅広く執筆。
近況: 最近、役者名を誤表記する失敗が続き、猛省しています。配給会社様や読者様からの指摘を受けるまで気づかない不始末ぶりで、本当に申し訳ありません。
J・ステイサム演じる謎めいた警備員Hが本懐を遂げるまで、予想を裏切ることなく突き進む。卓越した戦闘スキルを持ち、常に冷静で、複数の情報源と連絡を取るHとは何者か? と思わせつつ、G・リッチー監督はHの目的と敵をすぐに明らかにする。要は彼がどのように本懐を遂げるかが見どころ。登場人物がうまく捌かれているので、見る側も寄り道をせずに済む。ステイサムが得意とするハードなアクション満載で、『96時間』タイプの犯罪アクション好きには堪らないはず。ステイサムが彼に俳優デビューのチャンスを与えてくれたリッチー監督と久々に組んだが、監督のテイストよりもステイサムのスター・パワーを感じる作風となっている。
ライブハウス火災を発端に国家の汚職に切り込むジャーナリストと新任の保健省大臣の奮闘が韓流ドラマ並みにスリリング。薄めた消毒液を病院に卸していた男性が不審死を遂げ、異常な法律に縛られた大臣は与党から邪悪な攻撃を受ける。政治家が権力とリベートに酔いしれる一方、国民の命は風前の灯! 民主化されても汚職が止まないルーマニアにチャウシェスクの影がのぞく。ああ、怖い。しかし、 コロナ禍で医療体制が逼迫するなか、新総裁選びに夢中になっていた自民党が治める我が国も似たようなものか。国家の過ちを正そうと努力する人々の活動はもちろん、民主主義の未来をさまざまに想像させるエンディングまで痺れる快作。
ムーミンの原作者としてしか意識していなかった女性トーベが本作によって、血肉の通ったリアルな存在となった。父親や権威主義な芸術界への反発からボヘミアンな生き方を選んだトーベの自由への渇望が激しく伝わる。その一方で、父親の芸術至上主義に逆らえず、自己評価が低い彼女が痛々しい。包容力のあるアトスから愛されながらも自由奔放な人妻との恋に溺れていくトーベの複雑な心模様をA・ポウスティが巧みな表情演技で表現する。破局のシーンも多く、全てが切なかった。子どもの頃に好きだった「ムーミン」シリーズには実はトーベの人生が影響していたこともわかり、奥深いメッセージを読み取れる今こそ再読すべしと心にメモ。
保守的な田舎町では浮きまくる男女がパンク愛で結ばれ、共闘する姿がなかなか痛快。主人公のパティとサイモンはいわゆる負け犬で、二人のキャラ紹介ともいえる序盤はうんざりするほどのダメダメぶり。特にパティの不思議ちゃんぶりは痛いほどだが、鎮静剤が必要としか思えない荒れたサイモンと心を通わせるうちに輝いていく。物語が進行するに従って自信を持ち、平凡に思えた顔つきすらも可愛く見えるようになるパティのマジカルなこと。というか演じているエミリー・スケッグスの才能に一目置き、今後に期待だ。普通じゃないけど何?と開き直ったカップルに幸あらんことを祈る! そして、もう少し笑える場面が欲しかった。
シイタケのほだ場を取材した直後に見たので、菌類のさまざまなパワーにビビッドに反応してしまった。生きとし生けるものの分解や再生に重大な役目を果たしたり、環境を浄化したり。さらにはアルツハイマーや癌などの治療にも実験的に使われているとは驚くばかり。キノコって低カロリーで美味しいだけではなかったのだ! マンディ・パティンキン似の菌類学者ポール・スタメッツのきのこ愛に和む。特殊なレンズやカメラを使った菌類の映像も美しいし、地球と人類を救うのはキノコかもと思わせる。ただしマジック・マッシュルームの世界に突入する後半は、あまり興味が持てず。