略歴: 雑誌編集者からフリーに転身。インタビューや映画評を中心にファッション&ゴシップまで幅広く執筆。
近況: 最近、役者名を誤表記する失敗が続き、猛省しています。配給会社様や読者様からの指摘を受けるまで気づかない不始末ぶりで、本当に申し訳ありません。
韓国の民主化への道のりを描き、危険視される政治家ウィシクのモデルも検討はつくが、実話ものではない。だからこそウィシクと彼を盗聴するチーム長デグォンらの人格を自由に膨らませることが可能になり、血肉が通ったキャラクターが生まれている。抜擢に張り切るデグォンを筆頭に国家へ盲目的な忠誠を誓った男たちの言動が滑稽だ。濡れ衣を着せる書類を仕込むのに四苦八苦し、ヒット曲を暗号と勘違い。シリアスな題材にユーモアを交え、人情味あふれるドラマに仕上げたイ・ファンギョン監督の手腕は確かだ。抜群のタイミングで笑いを誘うオ・ダルスが相変わらずの演技巧者ぶりを披露。熱血漢が似合うチョン・ウとの相性も素晴らしい。
Kコスメには高い美意識を感じるし、美容整形にも肯定的なイメージがある韓国。美男美女は就職で圧倒的に有利と聞くし、自己受容とは真逆の外見至上主義がいっそ清々しい! が、本作はその風潮に一石を投じている。主人公イェジは幼少時から顔にコンプレックスがあり、人生に対して後ろ向き。性格もかなり歪んでいる彼女が“整形水”を使った画期的な手法で美女に変身し、何を手に入れるのか? 物語から導き出される教えに新鮮味はないが、ホラー感たっぷりの終盤にニヤリ。韓国事情に疎いので、芸能界では枕営業が当たり前で、美人がこぞって性格悪いという描写にリアリティがあるのかは謎でした。都市伝説のような?
現役時代はメディアに登場しなかったミステリアスなデザイナー、マルタン・マルジェラが自身とキャリアを語り下ろすという画期的なドキュメンタリー。彼をよく知る恩師ゴルチエやプレスの証言も面白いが、重要なのはマルジェラ本人の言葉。デザイナーを目指したきっかけや子供時代のファッション経験、服の概念を変えたユニークなデザインが生まれた経緯など多岐にわたって語られ、本人の顔が見えずともマルジェラの人間性と創造性が伝わってくる。ドリス・ヴァン・ノッテンのドキュメンタリーを手がけたライナー・ホルツェマー監督は対象者の信頼を見事に勝ち得ていて、だからこそ内面に切り込めたのだろう。
何でもありと思わせるアメリカの選挙事情を軸に、ワシントンのエリート層と中西部で生きる庶民の生活感がかけ離れている現実を浮き彫りにする風刺的コメディだ。4年後の政権奪還に向けてど田舎の町長選挙に介入する民主党の選挙参謀も平気で嘘をつくライバルもかなりカリカチュアされているが、実際にいそうな気配濃厚。特にR・バーンが演じる共和党の選挙参謀はケリーアン・コンウェイがモデルのはず。スピンの達人だし! 国民不在の政治がまかり通る国への不安は、政治ネタを得意とするコメディアン、ジョン・スチュワート監督らしいメッセージだ。民主主義の危機に直面するアメリカを見て、日本人も笑ってる場合じゃないと思うはず。
柔和なお嬢様風だけれど、心の奥に底無し沼を抱えていそうな役柄を上手にこなす黒木華の魅力全開。人気漫画家の佐和子が夫の浮気に気付かないフリをする冒頭から復讐劇の予感はするが、単純な展開ではない。複雑怪奇なヒロインの心理を丹念に書き込んだ脚本と妄想めいた演出がうまい! 不倫をテーマにした漫画を使って夫にメッセージを送り、じわじわ責め立てる妻を恐ろしいと考えるか、愉快と受け取るか? 浮気に対する寛容度で違うだろうが、夫だけではなく観客も煙に巻く佐和子の面倒臭い言動はユーモラスでもある。不倫相手の素っ頓狂さがまた面白く、柄本佑が演じるクズ夫が翻弄されっぱなしなのがいい。