略歴: 雑誌編集者からフリーに転身。インタビューや映画評を中心にファッション&ゴシップまで幅広く執筆。
近況: 最近、役者名を誤表記する失敗が続き、猛省しています。配給会社様や読者様からの指摘を受けるまで気づかない不始末ぶりで、本当に申し訳ありません。
欲深い役人の圧政に抵抗する庶民派ヒーローとして愛されたロビン・フッドを現代風に解釈していて、G・リッチー監督の『キング・アーサー』と似たテイスト。派手なバトルが見どころ。田舎貴族が正義の味方になるまでのオリジン・ストーリーにしたのは、トリロジーを意識してのことかも。十字軍中に知り合った異教徒ジョンの指導で『ロッキー』的に戦闘能力を高めたり、マリアンがウィル・スカーレットと結婚していたりと過剰な脚色に違和感を覚えた。B・メンデルスゾーンの悪代官ぶりも通り一辺倒で、やっつけ仕事な感じ。大作なのにもったいない。とはいえ、タロン・エガートンのファンなら楽しめるはず。
ヒロインが税関職員なので、国境や移民問題の社会派ドラマかと心積もりしたら、想像をはるかに超える奇抜で興味深い物語が広がる傑作だった。常に疎外感を感じる孤独なヒロインのアイデンティティ探しがメインだが、最初から最後までジャンル分けが無意味と思えるほど新鮮な驚きにあふれている。寛容の国スウェーデンの恥部ともいえるサーミ人分離政策を思わせる設定が用意され、トロールによるチェンジリングという妖精物語の定番ネタを現代の醜悪な犯罪と絡ませることで監督があぶり出す負の人間性が恐ろしい。異形のヒロインを演じるE・メランデルは本作で初めて見たが、不思議な存在になりきった演技が感動的だ。
一夫多妻制や児童婚の風習があった19世紀ベトナムの話なので、家や子孫繁栄の道具とされる女性の切なさが前面に出ている。が、監督は14歳で嫁いだ主人公メイや第二夫人の娘ニャンの言動で女性の新たな生き方を示唆しつつも、旧弊な考え方を全否定するわけでない。フェミニズムを強調しすぎない、バランス感覚が素晴らしい。実際「嫁の役目は男児を生んで、家を存続させること」と考える人は現代日本にも少なくないわけで、いわゆる名家に嫁いだ女性は避けられない宿命かもしれないし。繭を作る蚕や自然風景で登場人物の感情を隠喩的に表現する映像美にトラン・アン・ユンのDNAを感じたのだが、本人が美術監督で参加してました。
女性側からの視点で取り上げられることが多い妊活だが、実際は夫婦双方の問題と納得する作品。妊活のディテールも描かれ、主人公の夫婦が相当に苦労したこともよくわかった。同じ状況のカップルが見るのは、辛いかもしれない。
精子の稼働率が低いという問題が発覚した夫が愛妻を失望させたと悩む姿や生理が来るたびに落ち込む妻の姿がとてもリアルで、実話の深みあり。しかしシリアスになりすぎず、ユーモアを交えて描いているので見ている側も心の片隅でホッとできる。当事者であるヒキタクニオ氏が妊活をちょっと斜めから見つめた結果だろう。とはいえ、「ダメ金玉!」に集約される夫の気持ちが切ない。名台詞でした!
DCスーパーヴィランの一人であるジョーカーのオリジンを創造性たっぷりに、かつ現代社会が抱える問題点も含めて描いたT・フィリップス監督の発想が物語に深みを与えている。ホアキンは精神的に破綻をきたしたキャラを演じるのが得意なので、ジョーカー役にハマったのも当然だろう。相当な減量でガリガリになった肉体を惜しげもなく晒し、悲しげな表情や不気味なダンスで孤独や心の歪みを表現する。ピエロ恐怖症の人は『IT』に続いてNGでしょう。ネグレクトや弱者に救いの手を差し伸べない社会を批判する演出はいいが、どうしても気になったのがメンタルヘルス問題。凶悪な犯罪者がみなそうとは限らないのでは?