略歴: 雑誌編集者からフリーに転身。インタビューや映画評を中心にファッション&ゴシップまで幅広く執筆。
近況: 最近、役者名を誤表記する失敗が続き、猛省しています。配給会社様や読者様からの指摘を受けるまで気づかない不始末ぶりで、本当に申し訳ありません。
キアヌのガンフー・アクションが素晴らしい、架空の暗殺結社の世界観がますます拡大する。第2弾の終了から数分語という設定でスタートするのも面白いが、ジョンの過去や結社のヒエラルキー&構成などが徐々に明らかになるのも興味深い。製作予算が増えたのは一目瞭然! 昔馴染みソフィアを演じるH・ベリーの40代とは思えない颯爽としたアクション演技が華やか。情に一定のラインを引く人間という設定もいい。命と情と誇りのバランスが今回は鍵となっていて、ジョンを取り巻くキャラクターの変節なども見ものだ。敵役のM・ダカスコスはキレのある動きで他を圧倒するお得な役どころだが、三の線を強調しすぎかな。
ムンバイ同時多発テロの標的だったタージマハル・ホテル内の状況が克明に描かれるなか、心動かされたのがホテル従業員の勇敢さ。凄惨な殺戮が行われるなか、ホテルマンの矜持にかけて客を守ろうと奮闘。ムスリムとシーク教徒の違いがわからずパニックに陥るご婦人を諭す給仕係や部下の気持ちを組む料理長、テロリストの命令を拒み射殺される客室係の行動をドラマティックに描写。最悪の事態で高潔な志を貫ける人々の存在は、人間性を信じさせてくれる。一方、テロリスト像もリアルだ。死を前に家族に電話する若者の言葉から、凶行に走ったのは家族への思いに付け込まれたからこともわかる。謎の黒幕に憤りを感じた。
ハリケーンで浸水した住宅地にワニがうじゃうじゃ、というアイデアで最後まで突っ走るB級映画だが、アジャ監督ファンでなくとも楽しめる要素満載。敵(?)は自然災害とモンスター級に怖いワニなので、主役の父娘と愛犬の壮絶なサバイバルっぷりはもう手に汗握るほど。ユーモアがあった『ピラニア3D』と違って、シリアス度が高いのだ。父娘に重きを置く一方で脇キャラの扱いはかなり雑だが、それもある意味、痛快だ。そして、最新技術を駆使したワニの造形は一見の価値あり。製作陣はワニの動きなども相当に研究していて、「このワニ、本物?」と思わせるリアルさで見る側の恐怖を増長! 見終わって、避難勧告には従うべしと思いました。
『ウィッチ』以来、注目しているアニャ・テイラー=ジョイ主演作らしい味わいであり、サイコパスが出会うととんでもないことが起きると思わせるサイコスリラーだった。友情という衣を被った奇妙なマウンティングや感情の欠落を自覚する少女の危ない言動は、同世代の観客にはかなりアピールするはず。美少女ふたりの妖しくも微妙な関係性、歪んだ思考と驚くほど大人びた会話のギャップが印象的。心に闇を抱えているせいか、少女たちの会話内容がディープすぎる傾向があるが、舞台劇をイメージしていたと知って納得。口ばかりなダメ男を演じるA・イェルチンの普通っぷりに嫌された。
『スノーマン』で有名なイラストレーター、レイモンド・ブリッグスの両親の物語は愛とユーモアがあふれる快作だ。20年代後半のイギリスで出会い、恋に落ちたエセルとアーネストは当時の庶民の代表とも言える平凡な夫婦で、だからこそ彼らが体験する出来事や事件に誰もが共感できるはず。特に第二次大戦を体験した世代には空襲のことやその後の食品事情など、ある意味、ノスタルジックな気持ちがこみ上げるかも。ブリッグスの画風を再現したアニメ映像はほのぼのと心地よく、徐々に成長する庭の木など細部への気配りに脱帽。J・ブロードベントとB・ブレッシンが声に夫婦の人間性や個性をしっかりとにじませていて、もう参ったというほかない。