略歴: 雑誌編集者からフリーに転身。インタビューや映画評を中心にファッション&ゴシップまで幅広く執筆。
近況: 最近、役者名を誤表記する失敗が続き、猛省しています。配給会社様や読者様からの指摘を受けるまで気づかない不始末ぶりで、本当に申し訳ありません。
L・ニーソンの『水戸黄門』化が進行し、どんな展開になっても大船に乗った気分で見ていられる。というわけでハラハラ感はなく、悪人がどのような正義の裁きを受けるのかが見どころ。敵が欲に目が眩んだ司法権力であり、彼らに比べたらアリのような小物のはずの泥棒が逆襲に出るというのも痛快ポイント。ニーソンが演じる“良心的”な銀行強盗カーターは爆破が専門の元軍人という設定なので、バッコンバッコン爆発するかと思ったが、そこは抑え目。予算の問題か? 大作出演が多く、期待度の高いJ・コートニーもニーソンの相手役としては力量が足りておらず、演じるキャラの末期が予想できてしまうのが難点か。
望まぬ妊娠をした17歳の少女オータムの決断をめぐる物語は、政治的メッセージも感じるが、とても詩的な作品だ。閉鎖的な田舎で育った少女がNYの医療NPOで初めて、心身の健康に気を使ってくれる人に出会い、目から鱗が落ちる場面が心に染みる。17歳はもう子供ではないけれど、知らないことだらけで不安なのだ。彼女の世界を広げ、女性の権利をも伝えるカウンセラーとの会話に注目してほしい。一夜を過ごすNYでオータムを支える従姉妹スカイラーの存在もまた頼もしい。パンデミックで女性の失業率が上がるなか、彼女の「男に生まれればよかったと思ったことない?」と無邪気そうで実は核心をつくセリフにも頷いた。
パンデミックで馬脚を表した菅義偉の本質と彼を支える政治資金&人脈を追い、日本の政治に迫る、面白くてためになるドキュメンタリーだ。既得権にしがみつき、敵とみなした人間を追い落とす政治力はある菅は果たして、国のトップに相応しいのか? 答えは明らかだが、見識豊かなジャーナリストや学者、「NO」を突き付けた元官僚らが理路整然と菅義偉や自民党政権を分析してくれる。また政界だけでなく大手新聞社の日和見姿勢や「政治なんてわからない」と右に倣えを決め込む庶民にも反省を促す監督の姿勢が素晴らしい。国政を注視し、間違っていると思うことに異を唱えることは国民の務め。怒れる羊にならなくてはと肝に銘じた。
ナンセンスな設定やキャラ造形、手作り感あふれる特撮にロジャー・コーマン的なチープさが漂う、B級映画好きにはたまらない快作。銀河系最恐の怪物を操れる宝石を手に入れた小学生ミミが彼をサイコゴアマン(通称PG)と命名し、家来として連れ回すことで起こるハプニングに大笑い。N=J・ハナが演じるミミがかなりの切れキャラで、邪悪なはずのPGも手玉に取られっ放し。小学生あるあるな会話やカルチャーギャップの使い方も上手い。しかもブラックな笑いとグロい殺戮シーンだけでなく、ファミリー・ドラマ的な展開も組み込まれていて、意外に奥が深い。一見いい話にも思えるのだが……、エンドクレジットまでシュールなり。
少女っぽさが魅力のC・マリガンが羊の皮を被った狼を驚愕させる冒頭から「次に何が起こるの?」と興味をそそらせられずにはいられない展開。ヒロイン。キャシーの意図が徐々に明らかになると同時に性暴力社会を作る要因が描かれ、女性としては納得しきり。特に被害者に非があると思い込む女性の描き方がリアルだ。男性に対して心を閉ざしていたキャシーと旧友の再会によるラブコメ的な展開を絡ませながらも、彼女のモチベーションである復讐心を揺るがせないE・フェンネルの監督の筆力が素晴らしい。オスカー受賞も当然なり! 『キリング・イヴ』で賢くタフな女性を活躍させた監督らしいキャラ設定と綿密に計算された筋書きだ。