略歴: 茨城県出身。スポーツ紙記者を経てフリーの映画ジャーナリストに。全国商工新聞、月刊スカパー!(ぴあ)、時事通信などに執筆中。
近況: 映画祭で国内外を飛び回っているうちに”乗り鉄”であることに気づき、全国商工新聞で「乗りテツおはるの全国漫遊記」を連載。旅ブログ(ちょこっと映画)もぼちぼち書いてます。
個性的なミュージシャンを見慣れてきたはずだが、ボサノヴァの神様も裏切らない。2008年以降、公に姿を見せず。目撃されれば即投稿の時代にだ。監督が関係者を巡ると、出るわ、出るわの愛すべき偏屈エピソードの数々。図らずしも金と名声と地位を得てしまった男の、音楽の純度を保つための抗いか。
ヒッチコックの『レベッカ』よろしく、姿見せぬ者の人物像と胸の内を想像させる刺激的で緻密なドキュメンタリーだ。
ただ映画は、神様の本を出版した独人記者への弔い旅という二重構造になっており、本の内容が分からない者には歯痒い部分はある。
しかしオープニングといい監督の映像センスは必見だ。
タランティーノによるTVやB級映画の担い手たちへのオマージュであることは間違いないのだが、『キル・ビル』を無邪気に作っていた頃とは違う。最近の作品同様、怒りがある。時代の変化の名の下に、一斉を風靡したスターやスタッフを簡単に切り捨ててしまうハリウッドのシステムに対して。『吸血鬼』や『ローズマリーの赤ちゃん』を伸び伸び製作していたポランスキー夫妻の運命を変えてしまったカルト集団に対して。自分が愛したモノを破壊した奴らにラストで強烈なお仕置きを用意したのがタラらしいが、お金と技術を投入して彼らが生きていた時間を精密に再現した愛情のかけ方も彼らしい。でもちょっと長いかな。
売れてドラッグにハマり痛い目に遭う。
ミュージシャン映画の王道だ。
当人たちがそういう人生を歩んできたのだから致し方ない。
しかしエルトン・ジョンは現役だ。製作総指揮も務めている。
だが失態も家族との軋轢も、”ありのまま”を惜し気なく晒す。
レジェンドになることを拒否しているかのよう。ROCKだな。
そもそも自分をイジった『キングスマン』チームと組んでいる辺りもセンスあり。
天邪鬼な彼らだけに、ライブシーンてんこ盛りで観客にカタルシスを与えるようなことはしない。
音楽の才能は『ライオン・キング』で補足するとして、エルトンの波乱人生とタロン・エジャトンの多才さを堪能したい。
盲点だった。
『OUT』や『冷たい熱帯魚』でも描かれているように、狭い浴室で死体を解体するのが日本映画のお約束。
そうか、銭湯があったじゃないか!
焼却設備も併せ持っており、なんと好都合なことか(あくまで映画の設定としてです)。
このアイデアが実に効果的。
私たちの生活に密着した場所で、東大卒なのにニートという主人公が犯罪にハマっていく過程は昨今の事件をも彷彿とさせ、より身近に起こりうる恐怖を感じさせる。
エンタメに社会性をはらませることが不得意な日本映画界において、これは期待の新鋭の誕生だ。
唯一ひっかるのが音楽。低音度で進む展開おいて突如流れるキャッチーな曲に、一気に現実に引き戻された。
ケリー・オハラの超絶パフォーマンスと、二の腕の筋肉からたゆまぬ努力が窺い知れる本作。
さらに主演2人とチャン夫人役のルーシー・アン・マイルズの本作からの卒業が発表されてお宝度UP。
舞台の映像化が定番となった今日に感謝しきり。
当初は人種&女性差別が問題視されたが、再演の度に微細を修正。
特にロンドン公演はケリーとルーシー、タプティム役のナヨン・チョンという実力派が揃い、
過酷な状況下でも凛として生きる女性の姿を浮かび上がらせた。
現代の女性たちへのエールが込められているのだろう。
そして渡辺をはじめアジア系キャストの活躍に、”西洋と東洋の相互理解”というテーマがより心に深く染み入るのだ。