相馬 学

相馬 学

略歴: アクションとスリラーが大好物のフリーライター。『DVD&ブルーレイでーた』『SCREEN』『Audition』『SPA!』等の雑誌や、ネット媒体、劇場パンフレット等でお仕事中。

近況: 『ワイルド・スピード/ファイヤーブースト』『探偵マーロウ』『ドラキュラ/デメテル号最期の航海』他の劇場パンフレットに寄稿。「シネマスクエア」誌にて、正門良規さんに映画とその音楽について話を聞く連載を開始。

相馬 学 さんの映画短評

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  • Flow
    その箱舟は、ヒトのいない美しい世界を漂う
    ★★★★★

     映画が始まるや好機心を刺激され、その世界に没入する。水位が急上昇した世界で、一匹の猫は生き残れるのだろうか?

     なぜ水位が上がったのかは、気候変動に敏感な方なら想像をめぐらすことができるだろう。ここで描かれる世界は文明の残骸のみで、人の気配がまったくないディストピア。文明とは無縁の動物たちが、空と海の間でしっかり生き延びていることがイマジネーションを刺激する。

     日差しと水面の反射、空の青と草木の緑、暗闇と底知れぬ沈下。言葉のない映画だが、その美しさは箱舟に乗った動物たちの生命力とともに、多くを物語る。素晴らしい。

  • マッド・マウス ~ミッキーとミニー~
    とりあえず、シリアルキラーデビュー
    ★★★★★

     ミッキー・マウスを無感情な殺人鬼として描くコンセプトが、最初にありきの企画。舞台を巨大ゲームセンターに限定している点はサバイバルホラーとしては面白い。

     時間軸を錯綜させる構図もミステリアスで心惹かれるが、肝心のミッキーのキャラクターが、魅力を底上げしないまま不死身の殺人鬼に終始しているのがもったいない。『テリファー』シリーズが3作かけて築いたことを、1作でやろうとして破綻したような、微妙な後味が残る。

     とりあえず、誰もやろうとは思わないアンタッチャブルなことを実行した意欲は買い。ホラー版『プー』シリーズのような続編での確変に期待しつつ、★一個おまけ。

  • ロングレッグス
    オカルトをリアルに吸収したサイコスリラー新境地
    ★★★★★

     『羊たちの沈黙』からの引用や『セブン』のような陰鬱な空気感。90年代のサイコスリラーからの影響は明白だが、それでいて想像の上を行く独創的な展開に気持ちを持っていかれる。

     幻視や悪魔崇拝などのオカルトの要素を盛り込みつつも、現実味を損なわない点が、とにかく素晴らしい。パーキンス監督によると、ガス・ヴァン・サント作品のような映像を目指したとのことだが、なるほどのリアリティ。N・ケイジという濃い“素材”も、本作の世界観にはうまい具合に溶け込んだ。

     元祖サイコスリラー『サイコ』の主演俳優を父に持つ監督だけに、時代がひと回りした感慨も。ここから新しい波が始まりそうな予感を抱かせる。逸品!

  • ウィキッド ふたりの魔女
    ドリーミーなだけではない、魔女の本気
    ★★★★

     まずミュージカル映画の絢爛豪華な旨味を堪能できるのが魅力。『オズの魔法使い』の世界と地続きのカラフルかつポップなビジュアルが、歌とダンスの圧倒的なスペクタクルと一体となった。とりわけ、回転書棚がある図書館でのシークエンスは映画ならではの視覚効果が生きて圧巻。

     一方でエルファバの姿勢にファンタジーでは片づけられない、現代社会へのメッセージが宿る。体制による“分断”への問題提起が、硬派な魅力を宿らせる。

     エルファバにふんしたC・エリヴォのヘビーな歌声も、グリンダ役のA・グランデの軽やかさも映え、オズの国に引き込まれる。早く続きを観たい。

  • TATAMI
    スポーツが国境を越えられない不条理
    ★★★★

     イランとイスラエルの政治的対立がスポーツの世界にも持ち込まれ、国際大会ではイラン政府が選手に棄権を強いる。そんな実話に基づく本作には、すさまじい吸引力が宿る。

     モノクロ・スタンダードの画面が映るやアスリートの精神的な緊張に巻き込まれ、試合が進むほど、国の圧力や家族の危機などの状況的な緊張に巻き込まれる。主人公に勝利を許さない自国のルールや、女性の生きづらさといった不条理が重い。

     音の演出、とりわけ試合中の息遣いの生々しさも生きる。国境を超えるはずのスポーツが、なぜ超えられないのかを問う力作。イランとイスラエルの監督が共同で演出を務めた事実にも感嘆させられた。

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