略歴: アクションとスリラーが大好物のフリーライター。『DVD&ブルーレイでーた』『SCREEN』『Audition』『SPA!』等の雑誌や、ネット媒体、劇場パンフレット等でお仕事中。
近況: 『ワイルド・スピード/ファイヤーブースト』『探偵マーロウ』『ドラキュラ/デメテル号最期の航海』他の劇場パンフレットに寄稿。「シネマスクエア」誌にて、正門良規さんに映画とその音楽について話を聞く連載を開始。
2時間を超える長尺だが、それが気にならないジェットコースタームービー。『ジュマンジ』シリーズ近2作を手がけたJ・カスダン監督がまたもD・ジョンソンと組み、良質のエンタメ作品を放った。
バディムービーとして単純に楽しいが、ディテールもゴージャス。北極にあるサンタクロース本拠地の省庁的システムや、プレゼントをもらえない“悪い子リスト”の存在が物語を面白くする。
ドウェインはいつもながらに、力技とユーモアで魅力を発揮。確固たるクリスマス哲学を持ち、聖夜のために筋トレに励むサンタにふんしたJ・K・シモンズの妙演にも注目したい。
人間が動物に変異する、奇病が広まる世界。そこから話をどう広げるか? ホラーとしてつくる道もあっただろうが、“それが現実の世界で起こったら?”というリアルな視点で物語を紡ぐ。
愛する家族がこの奇病に冒されたら、それは悲劇だ。しかし本当に悲劇なのだろうか? そもそも、それを病気と断じてよいのか? 本作を観ていると、そんなさまざまなことが頭をよぎる。
監督はコロナ禍のときに本作のアイデアを思いついたとのことだが、本作はパンデミック初期の過剰な恐怖の反応を連想させる。警戒は必要。しかし未知のものを恐れるな、向き合えーーそんなメッセージが聞こえてきた。
“空想の友だち”をホラーキャラクターに仕立てた、ユニークなアイデアは買い。ブラムハウス作品らしい斬新さが脈づく。
ドラマはミステリー仕立てで、ふたりの娘の継母となった女性の、幼少期の思い出せない秘密が事件の引き金となる。この“引き”が巧い。主人公が幼少期に描いた絵や父親の言葉の謎がミステリーを加速させる。
家族愛の要素を含め構造的には『ポルターガイスト』を彷彿させ、作り手のホラー愛が感じられるつくり。鮮血は控えめなので、グロが苦手な方にもオススメできる。近所に住んでいそうな子役ふたりの、血の通った存在感も妙味。
監督が近い作品として挙げている『セッション』や『ブラック・スワン』。前者は壮絶な特訓、後者は壮絶な執心だが、緊張を感じさせるのは後者だろう。
前半の試験のシーンで、繰り返し問題を解くヒロインの少々病的な完璧主義的性格を見せ、それをボートの特訓につなげる妙。承認欲求なのかエゴなのか、その正体はわからないが、わからないからこそのスリルが宿る。“闘志と狂気のスパイラル”という監督の説明も頷けた。
I・ファーマンのキャスティングも絶妙というほかなく、無表情な『エスター』顔はもちろん、偏執の体現も強烈で引き込まれた。水面を行くボートの俯瞰描写による絵画的ビジュアルも〇。
繁殖した毒グモがマンションをパニックに陥れるという筋だけ聞けば、ありがちなホラーと思われるかもだが、これがなかなか骨太。
舞台となるパリのバンリュ―(=郊外)はヴァニセック監督の育った地で、低所得者や移民が多数暮らしている。原題の“害虫”とは毒グモに加え、偏見にさらされたそこに暮らす人々のことでもある。警官隊に隔離され、出口を失った、そんな彼らのサバイバルを活写。増えていくクモの巣の異様さが絶妙の照明効果によって恐怖を煽る。
監督の生涯のベストワン映画は『グラディエーター』とのことだが、必死のサバイバーたちのしぶとさにその影を観ることができる。