略歴: アクションとスリラーが大好物のフリーライター。『DVD&ブルーレイでーた』『SCREEN』『Audition』『SPA!』等の雑誌や、ネット媒体、劇場パンフレット等でお仕事中。
近況: 『ワイルド・スピード/ファイヤーブースト』『探偵マーロウ』『ドラキュラ/デメテル号最期の航海』他の劇場パンフレットに寄稿。「シネマスクエア」誌にて、正門良規さんに映画とその音楽について話を聞く連載を開始。
タイのホラーの濃厚さには目を見張るものがあるが、本作も然り。この分野で活躍するサクダピシット監督が強烈な人間ドラマとともに恐怖を紡ぐ。
事件の始まりはヒロインの目線で語られ、次にその夫、老女の視点で最初の物語を検証する三部構成。視点が重なるほど、そこで何が起きたのかが明らかになる。この構成はホラーでは新鮮だ。
オカルト設定を生かしつつ、それが実際に人間に起きたとき、どうするのか?……の検証も面白い。主演女優ジラヤンユンは、母性の激しい体現も相まって強い印象を残す。安堵と悲哀がブレンドしたかのような着地も◎。
ここ数年アート系作品でイイ仕事をしているN・ケイジが、好調もそのままに取り組んだ意欲作。内容はシュールだが、アリ・アスター製作のA24作品と聞けば、なんとなく腑に落ちる。
主人公はただ多くの人の夢に現われてしまっただけで、他に何もしていない。にもかかわらずセレブとして持ち上げられ、害悪として突き落とされる。現実にはありえない、しかしSNSの世ならあるかもしれない、なんともイヤな空気感が味。
主演のケイジは狼狽や焦燥をユーモラスに体現しつつ、恐ろしく不条理な状況に溶け込んだ。これがハリウッドデビューとなったノルウェー出身、K・ボルグリ監督の日常感覚にあふれた描写の妙も光る。
“嘘つき”というレッテルを貼られた人間に対する、好ましくない印象を逆手に取った巧さ。原作のそんな要素を生かしながら、サスペンスフルな群像劇を展開させる。
就職試験のゲーム的な要素、そのゲームがもたらす6人の結束の破綻、あぶり出される六六者六様の過去。それらを絡めつつミスリードをまぶした展開の妙。大企業のえげつなさや就活の残酷性を匂わせつつ、青春ドラマに着地させた点が面白い。
原作小説の文章表現の妙を映画で再現するのは困難と思われたが、カットのつなぎのスピード感や音楽の配置の巧妙さを生かすなどの工夫は買い。俳優6人の演技が織り成す舞台劇のような緊迫も味。
バイク乗りを主人公にして、1960年代の自由とその終焉を描く。『イージー・ライダー』をほうふつさせる、こんな硬派な物語が21世紀に生まれたことが嬉しい。
人と人がきちっと向き合えた時代の人間関係。そこには愛や友情、結束もあれば暴力や卑劣もある。J・ニコルズ監督らしい、そんなむき出しのドラマに、人間の本質が浮かび上がる。
時代の遺物と化すことを宿命づけられた、バイカーたちを演じるA・バトラーやT・ハーディの好演にも魅了された。人と人が直接向き合うことなく匿名でイージーライドできるSNSが一般化した現代に、この映画はどう映るのだろうか?
辛うじて黄金時代に足をかけていた前作の帝政ローマ。そこから斜陽まっしぐらの時期を背景に、新たな剣闘士のドラマを紡ぐ。すなわち、前作以上に大衆がヒーローを求めている時代の話。
民は飢え、帝政への不満は高まり、国家は破綻寸前。そこで暗躍する有象無象を描きながら、ひとりのグラディエーターの生を中心に置く。前作に比べて、おとぎ話性が増したが、希望が見えにくい時代に、この物語はある意味タイムリー。
前作同様CGに頼ってはいるが、セットは壮大になり絵的な迫力を増した。インフレを考慮しても大幅増の、前作の推定2.5倍の製作費が、それを物語っている。