略歴: アクションとスリラーが大好物のフリーライター。『DVD&ブルーレイでーた』『SCREEN』『Audition』『SPA!』等の雑誌や、ネット媒体、劇場パンフレット等でお仕事中。
近況: 『ワイルド・スピード/ファイヤーブースト』『探偵マーロウ』『ドラキュラ/デメテル号最期の航海』他の劇場パンフレットに寄稿。「シネマスクエア」誌にて、正門良規さんに映画とその音楽について話を聞く連載を開始。
C・ギレスピー監督は下層がてっぺんを脅かす、そんなドラマを得意としているが、本作はより痛快。近年の実話ということもあり、リアルな社会性を帯びている。
どこにでもいる個人投資家がソーシャルメディアでの呼びかけに応じ、空売りされている株を買いまくり、ヘッジファンドにダメージをあたえる。“富裕層のために貧しい者を軽んじるシステムに対する怒り”と、ギレスピーは物語の背景を語るが、それも納得。売りか、買いかで迷う投資家たちの心理もスリリングで、エンタメとしても面白い。
ロックダウンやネット掲示板の荒廃など庶民の閉塞感の描写もみごとで、この世界に生きるひとりのように楽しんだ。P・ダノ、好演!
草案は『テルマ&ルイーズ』に似ていたと監督は語るが、それも納得。本作はフィルムノワールのような緊張感とともに、女性たちの逃避行を切り取っていく。
“緑色の髪の女”の奔放さに刺激される、年上のヒロインの心の変遷を描出。彼女たちの姿をとおして、家父長制の下の女性の現実が浮かび上がり、女性を物のように扱う男権社会に対する反抗がドラマを動かす。これは現代の日本にもリンクするテーマではないか。
陰のあるファン・ビンビンも、自由を体現したイ・ジュヨンも、それぞれに魅力的で、ハードボイルドな物語の中にしっかり映える。“ガム”“許す”というキーワードに注目して、観てみて欲しい。
田舎にある親の実家を訪ねたら、祖父母の様子がヤバいほどヘン……という『ヴィジット』風の設定だが、似ているのはそこまで。
犯罪と断定できる怪事件に端を発し、それが信仰のようなもののうえに築かれ、さらには世の中の真理なのでは?と思わせるヒネッたつくり。信じていたものが崩れるヒロインの胸中と同様、観客の心理をダイレクトに揺さぶる。
田畑の風景ののどかさと、逃げ場のない恐怖の対比も絶妙。常識と異常の境目を突いてくる新鋭、下津雄太の着眼点の面白さに注目したい。
俳優J・アイゼンバーグは主演作『ソーシャル・ネットワーク』のように繊細な演技で知られているが、初の長編監督作となる本作でも細やかな演出を見せてくれる。
社会活動に熱心な母と動画配信に夢中の息子。そんな両者の葛藤をユーモアを交えつつ丁寧に描出。人助けが行き過ぎる前者も、SNSではなく現実を見つめる女子に恋した後者も、自分の世界に溺れていることが共通点。“ふたりとも自己愛が強すぎる”と、彼らの夫(父)は言うが、その問題がそのまま母と子の苦悶に表われたと言えよう。
母親役のJ・ムーアはもちろんだが、息子を演じたF・ウォルフハードの、イケメンなのにユルく映る妙演も印象に残る。
撮れたことが奇跡とも思える映像の凄みに、まず圧倒される。脱北と言っても、北朝鮮から韓国へと国境を越えるのは不可能。成功には中国からベトナム、ラオス、タイと多くの国境を越えなければならない。
当然、どの国境を無断で越えるのも困難が伴う。本作ではある家族の脱北までの道のりが描かれているが、とりわけ深夜に山道を何時間も歩いて深夜を越える記録映像に、とてつもない緊張を強いられる。
あまりに情報が少ない北朝鮮情勢や、西欧の北朝鮮観を知る上でも興味深い。ミサイル実験のニュースを頻繁に目にしてはゾッとする、そんな日本に必要な映画かもしれない。