相馬 学

相馬 学

略歴: アクションとスリラーが大好物のフリーライター。『DVD&ブルーレイでーた』『SCREEN』『Audition』『SPA!』等の雑誌や、ネット媒体、劇場パンフレット等でお仕事中。

近況: 『ワイルド・スピード/ファイヤーブースト』『探偵マーロウ』『ドラキュラ/デメテル号最期の航海』他の劇場パンフレットに寄稿。「シネマスクエア」誌にて、正門良規さんに映画とその音楽について話を聞く連載を開始。

相馬 学 さんの映画短評

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  • 燈火(ネオン)は消えず
    変わるものと変わらぬもの、そして、そこに生きる人
    ★★★★

     20年近く香港に行っていないため、名物のネオンが激減したことにショックを受けるも、変わりゆく時代と変わらない人間の魂に心を動かされる。

     ネオン職人の夫に先立たれた未亡人の心の変遷を軸にした物語は、亡き夫への愛情のみならず葛藤をも少しずつ明かしていき、夫婦関係の機微をリアルに伝える。ヒロインと周囲の人々との交流を少々急いで畳んだ感はあるが、それでもラストはグッときた。

     『悪漢探偵』から40年、主演のS・チャンは素敵な年の取り方をしているなあ…などと思いつつ、時代の変化について考えた。街と人の関わりをとらえた味のあるヒューマンドラマ。

  • ある閉ざされた雪の山荘で
    重構造の味がある舞台劇風ミステリー
    ★★★★★

     劇中劇ならぬ芝居中芝居というべきか、そんな設定の面白さに、まず引き込まれる。

     オーディションのはずが殺人事件疑惑へと発展し、ミステリーを深める面白いつくり。そこに劇団員間の愛憎や嫉妬、葛藤が複雑に絡み、人間ドラマを深めていく。

     怨恨が弱くミステリーとしてはライトな感があるものの、重構造をスピード感とともに見せきる勢いの良さは魅力。若手俳優たちのアンサンブルも舞台劇のようにテンポがよく、エネルギーを感じさせる。『笑いのカイブツ』の熱演も記憶に新しい岡山天音が、ここではジョーカー的なキャラで妙味を発揮。

  • 笑いのカイブツ
    オモロいだけが正義の世界、その“地獄”を行く
    ★★★★

     笑いを生み出す才能はあるのに、それを発揮するには社会性に欠ける。そんな原作者の若き日々が、実話に基づいて描かれる。

     とにかく彼は、観ていてもどかしくなるほど他人と触れ合えない。一方で、“オモロい”ネタを生み出すことに関しては天才的。それを認めてもらうために世に出ようとしても、人間関係が不得意であるためにはねのけられる。才能と熱意だけではどうにもならない、そんな“地獄”を生きる者の物語は、このうえなく重く、熱い。

     役者陣は皆それぞれイイ味を出すが、やはり主演の岡山天音の存在感が圧倒的。ネタ創作以外に自己表現の手段がない者の身悶えするほどのもどかしさが、その熱演から伝わってくる。

  • 哀れなるものたち
    きわめて完成度の高い、現代の寓話
    ★★★★★

    ランティモス監督作品らしく、とんでもないモノを観てしまった…という第一印象。これがあとからジワジワとシミてくる。

     “フランケンシュタイン”を思わせる設定に、“怪物”が美女で、博士の側がスカーフェイスというヒネリは面白いし、モノクロからカラーに転じるやセット撮影のシュールな空気が映える映像はフェリーニ作品のように幻惑的。W・デフォーら俳優陣のアクの強さも魅力を発し、とにかく隙のないつくり。

     何より、原作に惚れ込んで製作を兼任したE・ストーンの印象は強烈。大人の姿で、赤子から成熟していく女性の生を体現しつつ、男権&格差社会の現実を見せつけ、現代の寓話として着地させた。見応えアリ!

  • ゴールデンカムイ
    寒くても、倒れそうでも、這いつくばって、生きろ
    ★★★★

     原作を読んでいない前提で話をさせてもらうが、まっさらな状態だったこともあり、ワクワクしながら見入った。

     “弱いやつは食われる”という絶対ルールの下、極寒のサバイバルと、金塊探しの攻防が絡み物語を突き動かす。主人公の元兵士は生命力を体現し、相棒となるアイヌの少女は自然との共存の倫理を象徴。そんなふたりのコンビネーションはドラマを面白くするだけでなく、現代を生きるために必要なものを伝える。

     映画を見てから原作やアニメに触れたが、山崎賢人と山田杏奈の共演は、これらに比べて血の通ったものに映り、実写映画化の意義が確かに見いだせる。『キングダム』に負けず劣らず、早く次が見たい!

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