略歴: アクションとスリラーが大好物のフリーライター。『DVD&ブルーレイでーた』『SCREEN』『Audition』『SPA!』等の雑誌や、ネット媒体、劇場パンフレット等でお仕事中。
近況: 『ワイルド・スピード/ファイヤーブースト』『探偵マーロウ』『ドラキュラ/デメテル号最期の航海』他の劇場パンフレットに寄稿。「シネマスクエア」誌にて、正門良規さんに映画とその音楽について話を聞く連載を開始。
ガッツや根性のような汗臭い要素から距離を置き、サラリとユーモアをにじませる。そんなワイティティ作品の妙味を味わえる実録ドラマ。
世界最弱のサッカーチームの実話を描きながらも、その奮闘は控えめで、むしろ彼らを鍛えるためにやってきたコーチの心の変化にスポットを当てる。勝利へのこだわりから生じるピリピリした空気からの解放。そこに人生の喜びが見えてくる寸法だ。
そういう意味ではスポーツ映画ではあってもスポ根映画ではない。南洋の島ののどかな空気感も効果大で、勝った・負けたはどうでもよくなってくる。
雪山を舞台にした作家一家の話ということで『シャイニング』を連想したが、ある意味、コレよりも怖い話。
事件の勃発を描いた全半から、法廷劇へと転じる後半へ。サスペンスを深めながら、ある家族の関係を浮き彫りにする。妻と夫の凄まじい葛藤や、母と子の揺らぐ信頼がハンディカムによるドキュメンタリーのようなリアリティとともに描かれ、終始心を圧迫される。
事件の全貌を明かすことは意図しておらずミステリー性は薄いが、嫉妬やいらだち、とまどいなどの生々しい感情に引き込まれるうちに、それはどうでもよくなる。女と男の思考の違いも垣間見えて興味深い。
日本ではなじみの薄い17世紀の朝鮮史に題材を得ているが、これがミステリーとして、なかなか面白い。
宮廷で働き始めた目の不自由な鍼灸医が殺人事件を“目撃”するという設定。殺されたのが王の跡取りなのだから、事態は深刻だ。目撃者としては心もとないうえに、殺人の濡れ衣をも着せられかける、そんな主人公の奔走がスリリングで、目を奪われる。
ドラマ面にも味があり、見て見ぬフリをして権力の世界を生きようとする主人公が真実を正面から“見る”ようになるまでの姿に、人間性が浮かび上がる。繊細な音の演出ともども、じっくり味わいたい。
『ミッドサマー』の高評価を受けて、アリ・アスター監督が手がけた新作は約3時間の大作。長尺だが、終始観客を安心させない不穏な快作でもある。
精神に問題を抱える不安症の主人公ボーの妄想をそのままビジュアル化したような謎世界は、現実と幻覚の境界線に観客を立たせる。劇中劇の幻想性も効果的で、観ているこちらも感覚がマヒして、ボーと化していく。
アスターの前2作でも重要な要素となっていた母親の存在の重さは、本作では物語の幹として機能。驚がくのクライマックスでは、これまで見てきたものや、受け止めてきた事実がさらに怪しくなる。居心地の悪さを覚悟して観るべし。
ゲームを原作にしているということもあるが、ブラムハウスには珍しい陽性のホラーであることが、まず新鮮。大人になり切れない主人公と、その幼い妹を主人公にしたことで、ジュブナイル色も高まる。
閉鎖された、かつての人気ピザショップが“お化け屋敷”として機能。機械仕掛けの巨大マスコットたちが人間を襲う設定はスリリングだが、怖いというほどではなく、むしろアトラクション感を漂わせる。
何より、ジム・ヘンソン工房のアニマトロニクスによって命を得た巨大マスコットの造形が妙味。80年代のクリーチャーホラーにも似た手作り感が嬉しい。ホラーが苦手な方にもオススメ。