略歴: アクションとスリラーが大好物のフリーライター。『DVD&ブルーレイでーた』『SCREEN』『Audition』『SPA!』等の雑誌や、ネット媒体、劇場パンフレット等でお仕事中。
近況: 『ワイルド・スピード/ファイヤーブースト』『探偵マーロウ』『ドラキュラ/デメテル号最期の航海』他の劇場パンフレットに寄稿。「シネマスクエア」誌にて、正門良規さんに映画とその音楽について話を聞く連載を開始。
FBIの90分程度の公式音声記録のみで、サスペンス映画一本分のセリフが成立してしまう。これは奇跡というべきか。
国家機密を漏洩した罪に問われた25歳の女性の事件は米国では有名。筆者はFBIの尋問を追体験するようにして見た。当局の要請には協力的に応じる。一方で、何が罪に問われたのか不安を覚える。そんな主人公の感情へのフォーカスは、観客を当事者として巻き込むかのようだ。
民間人がひとり逮捕されるまでの過程をとらえながらも、その客観的な視点ゆえ、彼女の行動が過ちであったと断じないのも味。トランプ強権発動時代の、アメリカの暗い影も見えてくる。多角度から味わいたい逸品。
“普通××だよね”“普通××しないだろ”というときの“普通”。それは本当に“普通”なんだろうか? 見進めるほど、そんなことを考えさせる。
フェティッシュな性欲を抱えて孤立しながら、しだいにつながっていく人々の群像。そこには孤独という共感を引き起こす要素と同時に、異常性への距離感を匂わせる。そして、これが扇の要となるのだが、そんな人々を“異常”とみなす“普通”の検事のドラマがある。
この対立構造をサスペンスとして機能させつつ、キャラクター各々の“普通”を考えさせるつくり。俳優陣の素晴らしいアンサンブルの果ての美しいラストシーンを見たとき、観客は何を思うのだろうか?
MCU最新作は2時間越えが当たり前のマーベル作品の中でも最短の105分。すなわち、テンポの良さはピカイチだ。
さらに注目すべきは共闘するヒーロー3人組も、ヴィランもすべて女性であること。これだけを取ってダイバーシティだ、LGBTだと騒ぐつもりはないが、このキャラでエキサイティングなアクションをMCUで描くことができたのは、とてつもなく新鮮。
配信ドラマ版を観ていないとわからない……という批判もあるが、どの程度までわかればいいのか否かは個人の判断次第だろう。私的には、このスピーディなアクションだけでお腹いっぱい。『キャンディマン』のオタク女性監督N・ダコスタの、またもいい仕事!
夫の視点でスリラー色を深めていく前半から、妻の視点でドラマへと寄っていく後半へ。この流れが、なんとも巧い。
力ずくで野性の馬を取り押さえる男たちの姿を追ったオープニングは、その後に続く夫の受難へとつながる。暴力的で荒々しく、不穏。しかし妻の物語に変わるや、それはサスペンスを保ったまま穏やかに、愛の物語へと変容。その美しさがシミてくる。
夫婦を脅かす、貧しくて粗野な村人たちの言い分がわかるのもミソで、多角度的な人間ドラマはじつに豊潤。獣性と理性、男と女、恐怖と愛……さまざまな対比が興味深い。いつもは怖い(?)D・メノーシェか怖がる役というキャスティングも絶妙。
フィンランドでは珍しい徹底アクション指向のヘランダー監督が、バイオレンス濃いめで放った快作。
グラインドハウス色を振りまきながら展開する対ナチスバトルは『イングロリアス・バスターズ』を連想させるが、たったひとりで老兵が戦うのがミソで、その生命力の強さが表われるほどワクワクしてくる。敵にもその名が知られ、恐れられるレジェンド的設定もイイ。
ヘランダー作品の常連トンミラは、今回は主演だけに強烈な存在感を見せつける。監督の映画には欠かせない飛行アクションもあり、クライマックスをしっかり盛り上げる。