略歴: アクションとスリラーが大好物のフリーライター。『DVD&ブルーレイでーた』『SCREEN』『Audition』『SPA!』等の雑誌や、ネット媒体、劇場パンフレット等でお仕事中。
近況: 『ワイルド・スピード/ファイヤーブースト』『探偵マーロウ』『ドラキュラ/デメテル号最期の航海』他の劇場パンフレットに寄稿。「シネマスクエア」誌にて、正門良規さんに映画とその音楽について話を聞く連載を開始。
聡明で前向きな下町のおばちゃんを主人公に据え、最先端のファッション業界に放り込むという設定だけで、面白さは保証されたようなもの。英国製コメディらしい節度が、それを現実味とともにサポートする。
ブランド感を重視するファッションメーカーと、そのドレスに純粋な美を見るヒロイン。上級と下層の奇跡的な邂逅にはロマンが宿るし、そこに生じるカルチャーギャップはユーモラスそのもので目を引く。
1950年代というのどかな時代背景も生きた、せわしない現代では成立しえないファンタジー。ファッションに興味のある方なら視覚的にも楽しめるだろう。
クリスマスイブの夜、世界は終焉を迎える……そのとき、あなたならどうする? そんなことを考えさせる風刺スリラー。
家族ぐるみのつきあいである親友同士の4世帯が行なった最後のパーティ。そのさなかに、“死ぬなら美しく死にたい”と“死ぬ前だから好きなことを”がせめぎ合う。人間の滑稽さがにじみ出るブラックユーモアが妙味。
そんな大人たちをヨソに、子どもは子どもなりに考える。死にたくない。生きたい。大人に従いたくない――『ジョジョ・ラビット』の名子役R・G・デイヴィスが、親に向かって4文字言葉を吐きまくる、抵抗の生命力を体現。そこには確かに考えさせるものがある。
カンパニークレジットがなければA24製作と思えそうな、実験的で野心的なスリラー。居心地が良さそうで、実はあまり良くない世界を舞台にしているのがミソ。
『トゥルーマン・ショー』『マトリックス』などから発想を得たとO・ワイルド監督は語るが、なるほど、快適なニセの社会よりも真実の探求を選ぶ人間の潔さが、よく表われている。それをスリラーの形式に落とし込んだ手腕も見事。
もちろん、ただのジャンル映画には終わらず、女性が抱える社会的問題にも言及しており、そういう点でもワイルドの視点の鋭さが見て取れる。『ブックスマート~』とはまったく異なるテイストだが、コレはコレで見応えアリ。
高評価を得た前作を自分はそれほど好きになれず、その理由を理解しきれていなかったが、本作を見て目からウロコ。ヒーローの高潔過ぎるほどの高潔に共感できなかったのだろう。
そういう意味では前作よりもはるかに楽しめた。ヒーローなき時代を生きる人々の模索。高潔なブラックパンサーが存在しない世界という設定はそれだけでスリリングだし、高潔ではない迷える人々のドラマにも共感が抱ける。
ヒーロー不在どころかヒロイックな要素がほとんどないドラマを成立させたのは、アメコミ映画としては革新的。女性の群像劇を語っている点もユニークで、MCUの中でも異色と言えよう。個人的には、この“異色”が新鮮に映った。
プログラムピクチャー全盛期、1960~70年代の日本映画のスピリットが脈づいているというべきか。そんなエンタメ作品が韓国で作られたのは嬉しい驚き。
東映的な主人公の不良性を松竹風のバタくさい笑いが彩り、東宝流にしっかり泣かせる……というと型にハメ過ぎかもしれないが、古き良き娯楽映画の伝統が脈づいているのは間違いない。ご都合主義を気にせずに突っ走る展開にも好感が持てる。
クォン監督の前作『あの日、兄貴が灯した光』に比べると軽いノリだが、ステラという車の存在がカーペンターの『クリスティーン』を連想させ、ファンタジーの味を醸し出す。豪快アクションを期待すると肩透かしを食らうので注意。