略歴: アクションとスリラーが大好物のフリーライター。『DVD&ブルーレイでーた』『SCREEN』『Audition』『SPA!』等の雑誌や、ネット媒体、劇場パンフレット等でお仕事中。
近況: 『ワイルド・スピード/ファイヤーブースト』『探偵マーロウ』『ドラキュラ/デメテル号最期の航海』他の劇場パンフレットに寄稿。「シネマスクエア」誌にて、正門良規さんに映画とその音楽について話を聞く連載を開始。
ニコラス・ウィンディング・レフン監督の『オンリー・ゴッド』を、ふと思い出した。家族の復讐劇、バイオレンスであるはもちろんだが、そこに哲学や思想、アジアの神話性を盛り込んだドラマという点も、よく似ている。
『ファイト・クラブ』にも似たファイトシーンは肉体の痛みをしっかり伝え、『ジョン・ウィック』直伝のガンアクションはスピード感にあふれ目を奪う。そういう点では『オンリー・ゴッド』以上にエンタメ性に振れた。
主演とともに初監督を務めたD・パテルはルーツであるヒンドゥー社会の現実を踏まえながら、その先にあるものをつかみ取ろうとする。その意欲が、そのまま熱となったような力作。
前作はシンプルな残酷後日談だったが、今回は本格的に童話を解体。ドラマの再構築に並々ならぬ気合いを感じる。
クリストファー・ロビンの子どもの頃のトラウマにスポットを当て、ミステリーを敷き詰めているので前作のような弛緩はない。製作費が10倍になったおかげがスプラッター描写も凄まじく、ジェイソン+レザーフェイスのようなプーの大暴れは堂々たるホラーだ。
前作には登場しなかったティガーの、やたらと“ビ●チ”を連呼するえげつなさも味。聞けば、スタッフは童話のホラー化を推し進め、ユニバース化を目論んでいるそう。本作の本気を目の当たりにすると、ホラー好きとしては今後の展開も楽しみになってくる。
SNSを題材にした作品は今や珍しくはないが、起承転結の枠の中にそれをきっちりと落とし込んだドラマ作りの点で、本作は優れている。
フォロワーや“いいね”の数に揺さぶられるインフルエンサー心理に迫りつつ笑いをまじえながら、深刻化する事態を活写。分割画面はデ・パルマ作品にも似た、主人公の独白で語られる物語にはウディ・アレン的な、洗練をにおわせる。
映像の構図や色遣いにはポップな感性もうかがえ、一筋縄ではいかないスリラーに仕上がった。これが長編デビュー作となる新鋭S・カーグマンの名は、ぜひ覚えておきたい。
ついにMCUに組み込まれるデッドプール。そこにウルヴァリンまでついてくるのだから嬉しくなる。
この両雄を、いかにして遭遇させるかはマルチバース設定で対処。混乱を呼ぶと評されることもあるマルチバースに毒づくデップーらしい悪態も健在で、そればかりかグロもエロも付いてくる。ディズニーに移籍しても変わらないシリーズの毒気に加え、両雄バトルも迫力があり、見入ってしまう。
『デッドプール』と同様に非MCUだったマーベル作品への目配せも嬉しく、X-MENやファンタスティック・フォーなどなど旧20世紀フォックスが生んだヒーローへのオマージュにグッときた。
劣悪な生活環境は人を犯罪に駆り立てる。貧しい子どもも例外ではない。そんな格差社会の底辺を見つめたサスペンスフルな青春ドラマ。
継父による虐待や貧困、つねに見下される屈辱。主人公が裏社会に飛び込む理由はそれだけで十分だが、そこにも暴力は待っている。負の連鎖を断ち切り、“ろくでもない世界”から抜け出すには誰かの助けが必要。そこに生じる人間ドラマが本作の妙味と言えよう。
主演のホン・サビンの無垢な個性、目つきの鋭い俳優たちの起用が効いており、“顔”の映画的な魅力があふれる。中でも、主人公の兄貴分にふんしたソン・ジュンギの任侠感が印象に残る。