略歴: アクションとスリラーが大好物のフリーライター。『DVD&ブルーレイでーた』『SCREEN』『Audition』『SPA!』等の雑誌や、ネット媒体、劇場パンフレット等でお仕事中。
近況: 『ワイルド・スピード/ファイヤーブースト』『探偵マーロウ』『ドラキュラ/デメテル号最期の航海』他の劇場パンフレットに寄稿。「シネマスクエア」誌にて、正門良規さんに映画とその音楽について話を聞く連載を開始。
原作を読まずに観たが、前半から後半への転調に仰天。ありがちなオカルトホラーと思いきや、まったく異なる方向へと転がっていくのは『貞子vs伽椰子』の白石監督らしさではあるが、そこからさらに突き抜けるのが嬉しい。
霊が住む屋敷に越してきた家族を見舞う惨劇を徹底して突き詰めてドン底に突き落とす。そんな前半から“こんなことに負けてられるか!”という闘志の後半へ。この振幅の大きさが、見進めるほどに生きてくる。
極力内容を知らずに観て欲しいので詳しい説明は省くが、根岸季衣の怪演と南出凌嘉の熱演が相まって、とてつもないブレイクスルーを見せつける。「命を濃くしろ!」というセリフが頭から離れない。快作!
恋する男と女がすれ違い続けて会えないという点は『めぐり逢えたら』を連想させる。しかし、こちらは遠距離恋愛ではなく、壁を隔てたお隣さん同士。そんな設定が面白い。
分割画面で両者を映し出す手法は、まさに『めぐり逢えたら』。男女それぞれの周囲の支援も含め、ロマンチックコメディの方程式をうまくなぞっている。
男性はイケメンで頼りなく、女性は強いが悩みアリ……という韓国ロマコメ主流の組み合わせも踏襲。裏を返せば新味がないが、その筋の作品が好きな方であれば文句なしに楽しめるだろう。下町の雰囲気をとらえた庶民的描写も生きる。
正直この小説の映画化は無謀ではないか?と思っていたが、石井監督であれば、もしや……という気持ちもあった。そういう意味ではスリリングであったし、シュールな物語に魅了された。
原作の昭和を令和に持ち込み、ノスタルジックだが確かな“今”の物語を演出。他人に見られず他人を見るSNSカルチャーの風刺としても有効だろう。
注目すべきは、作者の安部公房が主人公の“書く”という行為の意味を追求したのと同様に、石井監督は“撮る”ことを考察していること。同時に“見る”“見られる”も問われ、観客も当事者となる。この構図は面白い。
パキスタン移民の英国人を主人公にしたティーエイジムービーと聞き、傑作『カセットテープ・ダイアリーズ』を連想したが、ベクトルは真逆。奇想天外な方向にふれているのがイイ。
青春劇にギャグとカンフーを絡めており、監督はボリウッド映画に影響を受けたと語るが、1970年代グラインドハウス映画の香りも濃厚で、後半の急展開もすんなりと飲み込める。対決シーンにいちいちテロップが出るのも味。
女性の“声”としても有効だが、声高に反ジェンダーロールを訴えず、快活なエンタメの中に溶け込ませているのが巧い。ラストに流れるエックス−レイ・スペックスのパンククラシック「アイデンティティ」がハマる。
竜巻から逃げるのではなく、向かっていくーー能動姿勢のアクションは前作『ツイスター』と同様で嬉しくなる。
ディザスター色は濃厚で、被害を最小限にとどめようとする主人公たちの奮闘が前作とは異なるポイント。竜巻追跡の目的に人道的なものを加えた、『ミナリ』のL・I・チョン監督の工夫が人間ドラマの妙味として機能する。
D・エドガー=ジョーンズとG・パウエルの旬のスターカップリングも生き、両者が体現する竜巻へのオタク的こだわりも面白い。嵐を追う者は、みずからも嵐になる。そんなキャラクター像に魅力を覚える。