略歴: アクションとスリラーが大好物のフリーライター。『DVD&ブルーレイでーた』『SCREEN』『Audition』『SPA!』等の雑誌や、ネット媒体、劇場パンフレット等でお仕事中。
近況: 『ワイルド・スピード/ファイヤーブースト』『探偵マーロウ』『ドラキュラ/デメテル号最期の航海』他の劇場パンフレットに寄稿。「シネマスクエア」誌にて、正門良規さんに映画とその音楽について話を聞く連載を開始。
ホロコーストの悲劇を描くのではなく、その後を生きる者のドラマとして興味深く観た。
ヒトラーかもしれない隣人は頑固者だが、ホロコーストを生き延びた主人公の老人も相当に偏屈で、その軋轢がユーモアを演出。主人公の暴走が時に“やり過ぎでは…”と思わせるのが妙味であり、偏見にとらわれがちな人間の性に対する風刺となってにじむ。
英国の名優D・ヘイマンと、ドイツ人の冷血漢といえばこの人(?)U・キアのかけあいも面白く、きっちり人間味を漂わせるのも巧い。ヘイトにとらわれがちな現代にも有効なテーマを持った佳作。
AIによって甦った歴史上の人物が日本の閣僚になるという設定は『翔んで埼玉』の武内監督らしく奇想天外。織田信長にふんしたGACKTのフィット感が、まず嬉しい。
パンデミック下で国民ひとりに50万円を10日間で給付し、内閣支持率が85パーセントに達するという、今の日本では起こりえない事態で笑わせる。野村萬斎ら偉人にふんした豪華キャストの共演も楽しい
後半では社会風刺からダイレクトなメッセージへと転化。長セリフにより映画のテンポが損われるのが少々残念だが、選挙民意識が高いとは言えない日本人には刺さる、鋭い言葉が多々アリ。
世界中で論争の的になっている不法移民を題材に取り、彼らの必死の思いと、それを迎える国の側の対立する姿勢をサスペンスとして描写。
越境を図るアフガニスタン人女性と、それを偶然助けたフランス人男性が、不法入国者を標的にする国粋主義者たちと攻防を繰り広げる。極寒の雪山という過酷な環境、限られた隠れ場所、ドローンを駆使した追跡など、スリルを盛り立てる要素に事欠かない。
主人公ふたりの孤独な人間像の描写も効き、胸に迫る描写も。社会派、スリラー、ドラマが90分の中に無駄なく凝縮された逸品。D・メノーシェが『理想郷』に続いて大熱演を見せる。必見。
ロトスコープ撮影とのことだが、言われないとわからないほどのアニメ感。とにかく気持ちのよい世界観。
バイクに乗るし、ケータイは使うし、マッサージのバイトもパチンコもする、人間まんまのあんずちゃんのペースに乗せられたと思いきや、『ビルとテッドの地獄旅行』のような展開に発展。化け猫が溶け込む田舎のファンタジーに奇想天外な味がマッチしつつ、そこからの着地も上手い。
フランスのスタジオの参加による色合いの淡さも押しつけがましくなく、ビジュアル的な好感度は高い。あんずちゃんの暮らす田舎町に、住みたくなってしまうかも!?
挑戦と宣伝という、米国社会を構成する相性の良くない2大要素をクローズアップしたと監督は語るが、それも納得。アポロ計画には、そのふたつが必要だったのだから。
“挑戦”を体現するC・テイタムと“宣伝”のS・ヨハンソンの、対立から共闘、ラブストーリーへ。ユーモアと軽やかさに彩られた、そんなドラマがチャーミングで引き込まれる。実話をベースにしたファンタジーとして楽しんだ。
広告の世界の極度な拝金主義を風刺的に描いた作品は多いが、そこに飛び込んだ人間のバックボーンもしっかり描かれ、シニシズムの要素は薄い。1950~60年代ハリウッド映画のオールドファッションなぬくもりあり。