略歴: アクションとスリラーが大好物のフリーライター。『DVD&ブルーレイでーた』『SCREEN』『Audition』『SPA!』等の雑誌や、ネット媒体、劇場パンフレット等でお仕事中。
近況: 『ワイルド・スピード/ファイヤーブースト』『探偵マーロウ』『ドラキュラ/デメテル号最期の航海』他の劇場パンフレットに寄稿。「シネマスクエア」誌にて、正門良規さんに映画とその音楽について話を聞く連載を開始。
プリンスのドキュメンタリーを作ることは、きわめてハードルが高い。天才という題材としての難しさはもちろん、クリアすべき権利関係の問題もある。本作はプリンス財団が関わっておらず、彼の楽曲も使用できないが、ここにはそれを逆手に取った面白さがある。
生い立ちや人間像を多角度から検証。子どもの頃のプリンスを知る人物の証言や、当時のミネアポリスの人種殺別の現実を織り込み、どのようにしてアーティスト、プリンスが誕生したのかをたどっていく。
子どもの頃のプリンスの姿が思い浮かぶようなアーカイブの使用が魅力。ファンの視点が作品そのもののプリンス愛の表明とイコールになる仕様も上手い。
こんな映画が55年も日本未公開だったことに正直、驚き。確かに実験的だが、極端なクローズアップやエログロ感覚など、レオーネやアルジェント作品にも通じるイタリア映画の伝統的映像表現が、しかと見てとれる。
猟奇スリラーのように始まり途中でいくらなんでも……というほどに転調し、ラストではまたテイストを変える。流れとしては強引だが、それでも結末のヒロインの姿に浮かび上がったメッセージをつかめば腑に落ちる。
嬉しい発見は、イタリア製B級映画に多くの美しいスコアを付けてきたS・チプリアーニが音楽を提供していること。本作のリフレインも印象的で、今や高値が付いているサントラが欲しくなってしまった。
“水”を恐怖の対象としている点では、同じJ・ワン製作の『ラ・ヨローナ 泣く女』を思い起こさせるが、こちらはより怪談色が濃厚。
プールの底に“何か”がいる……という設定は、足の届かない深さの底はもちろん、排水溝にも警戒心を抱かせる。これだけで泳ぎが得意ではない筆者には怖いが、加えて主人公の異変が『シャイニング』的な緊張を高める巧妙なつくり。
夜の水面のとらえ方や水中撮影など、緩急をつけた描写も光る。俊英B・マグワイア監督は『ポルターガイスト』のような一家の受難劇に発想を得たとのこと。描写にもホラーセンスの良さがうかがえる。
山下敦弘作品としてはずいぶんとコンパクトな尺だが、彼が『死霊のはらわた』を引き合いに出していたことを知って腑に落ちた。
雪に閉ざされた脱出不可能な山小屋で、親友同士と思われた男ふたりの思惑が交錯する。殺すか、殺されるかにまで発展する事態はブラックユーモア満点。“死霊”が地を這って迫ってくるような描写も織り込まれ、ついつい笑ってしまう。
つまるところ、これは山下のジャンル映画へのラブレター。とはいえ、人間の小賢しさや不器用さを客観視する彼らしさも生きている。短い尺のなかで濃密な演技をみせる、生田斗真とヤン・イクチュンの演技合戦にも見入った。
監督のA・バスケスはスペインのコミック作家とのことだが、それも納得のポップな画作り。愛嬌のあるテディベアやユニコーンのビジュアルにブラックユーモアが結びつく。
紫色を基調にした色彩は陰と陽が混在する強烈な世界。物語も同様で、テディベアの小隊の進軍は殺りくやサイケデリックトリップに彩られ、破滅的なクライマックスへと向かっていく。当然、脳裏への焼き付きも強烈だ。
擬人化されたテディベアの行状は人間の愚の象徴だが、神話的な結末ではそれがより明確に提示される。戦争の悲惨をシュールに描いているという点では21世紀の「ゲルニカ」か!?