略歴: アクションとスリラーが大好物のフリーライター。『DVD&ブルーレイでーた』『SCREEN』『Audition』『SPA!』等の雑誌や、ネット媒体、劇場パンフレット等でお仕事中。
近況: 『ワイルド・スピード/ファイヤーブースト』『探偵マーロウ』『ドラキュラ/デメテル号最期の航海』他の劇場パンフレットに寄稿。「シネマスクエア」誌にて、正門良規さんに映画とその音楽について話を聞く連載を開始。
大人の世界を知り始めた子どもには、深く考えることなく親を軽蔑してしまう時期がある。そんな時期を繊細かつリアルに切り取った秀作。
ホウ・シャオシエン作品の助監督を務めたシャオ監督の演出は師匠譲りの詩情をたたえつつも、人間味を押し出して独自性を発揮。自由主義化する台湾で失われてゆくものを子ども目線でとらえながら、失ってはいけないものを、しっかりと見据えている。
時代背景となる1989年の秋は『非情城市』でベネチア国際映画祭グランプリを受賞し、日本では『恋恋風塵』が公開され、ホウ監督の注目度が高まっていた時期。個人的には台湾ニューウェーブが一巡したような、そんな感慨を覚えた。
ナチスに対するユダヤ人の復讐を描いた作品は少なくないが、本作には独特のリアリティがあり、興味深く観た。
ナチスドイツに逃げ込み、ユダヤ人であることを隠して高級レストランのボーイの仕事を得た主人公。しかし、できることと言えばスープにツバを吐き、ドイツ人女性を誘惑してチンケな征服欲を満たす程度。そこに生じる虚無を見据えている点が面白い。復讐と言っても、体制に対して個人ができるのはその程度だ。
原作者の実体験に基づく物語とのことだが、やるせなさに共感できるのはリアリズムの表われ。主演を務めたE・クルムJr.のニヒルな存在感も光り、焼き付き度はきわめて高い。
シャマランの愛娘イシャナの監督デビュー作と聞くと、いろいろと想像は広がるところだが、ひとまずそんな先入観を忘れて観て欲しい。
スリラー演出の点では確かに父譲りで、クリーチャー描写をはじめ絵的にハッとさせられる部分もある。そこに寓意を宿らせ、きちっとオチを付けるのが本作の強み。ヒロインのトラウマの深さをジャンル映画に転化し、探求した作品というべきか。
いずれにしても、主人公の視点と監督の視点がシンクロしているのは、シャマラン父の作品では滅多に起こらない事象。作家性を語るにはもう少し時間が必要だが、とりあえずイシャナの今後の作品を観てみたくなった。
蛇のような目と劇中のセリフで語られる柴崎コウの怪演だけで、リメイクされる価値はあった。その姿は、とにかく圧倒的。
状況を支配する者の冷徹なまなざしや、暴力的にもなれる動物のような瞬発力など、ヒロインの一挙一動から目が離せないし、監禁の場で何を話し、何をするのかにも否応なしに興味が向く。もちろん緊迫感をあおるキャラクターでもある。
女性目線にしたことによって母性という要素も宿り、またユーモアも抑えられたことでオリジナルとは後味も異なる。スリラーの純度を高めた快作。
入江監督の作品の中では、もっとも冷徹な作品ではないだろうか。どれくらい冷徹かというと、社会の残酷に観ているこちらの肝が冷えるレベル。『誰も知らない』の、あの感覚だ。
児童虐待や薬物などの問題をリアルに描出。そこに初期パンデミックの恐怖をかぶせ、主人公を容赦なく追い込む。横浜に停泊した新型コロナ集団感染クルーズ船のニュースや、空飛ぶブルーインパルスの画が当時の記憶をまざまざと思い出させ、観る者の記憶を刺激する。
何より印象的なのは、目が前髪に隠れてもその感情が伝わる河合優実の演技。ほぼすっぴんの顔も社会の残酷に“揉まれた感”をよく表わしている。凄い。