略歴: 東京の出版社にて、月刊女性誌の映画担当編集者を務めた後、渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスターのインタビュー、撮影現場レポート、ハリウッド業界コラムなどを、日本の雑誌、新聞、ウェブサイトに寄稿する映画ジャーナリスト。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。
たとえばルース・ベイダー・ギンズバーグがそうだが、同じテーマですでに優れたドキュメンタリーがある場合、役者に演じさせたバージョンは、よほどユニークな視点を持っていないかぎり弱い。今作も、どうしても「AMY エイミー」と比べてしまった。彼女の遺族が製作を依頼したこともあってか、複雑な関係にあった父の描かれ方など、いろいろな部分が小綺麗にされたのが気になる。歌をほぼ自分でこなしたという主演のマリサ・アベラが全力を尽くしたのは伝わってくるし、ジャック・オコンネルとの相性には信憑性があるが、エイミーについての新たな発見も、サム・テイラー=ジョンソンらしさもなく、なんとも物足りない。
アイデアは非常にユニーク。一見穏やかながら、心の中に欲求不満や嫉妬を抱えている主人公ポール・マシューズのキャラクターも、とても面白い。ネットで突然有名になること、それが何につながるのかなど、現代社会の状況にも触れる。そうやってどんどん引き込むのだが、結局それらの興味深い要素をどうしていいかわからなかったようで、最後はやや肩透かしをくらう。とは言え、前作「シック・オブ・マイセルフ」で見せたクリストファー・ボルグリ監督のダークなユーモアは健在だし(ただし前作よりはマイルド)、彼とケイジの組み合わせは特別。この映画を支えているとも言えるケイジを見るだけでも、チェックする価値あり。
これぞ、ハリウッドの王道娯楽超大作。クラシックで共感できる話を最高のクオリティで語った良いお手本。バトルシーンは1作目同様、バイオレンスと迫力がたっぷり。前回リドリー・スコットがやりたかったのに不可能だったヒヒとの戦いも入るなど、斬新さも。誰もがやりたかったに違いないこの映画の主演の座を獲得したポール・メスカルは、激しいアクションシーンを見事にこなしながらも、静かなシーンでは彼が知られるところである、繊細でニュアンスのある演技を見せる。だが、それ以上にインパクトをもたらすのは、デンゼル・ワシントン。何度も組んでいるスコットは、彼が喜ぶとわかっている美味しい役を提供してあげたようだ。
アメリカの歴史の、ごく小さな一角。ジェフ・ニコルズは、60年代半ばにバイカー集団と時間を過ごした写真家の記録をもとに、失われたサブカルチャーをスクリーンで生き生きと映し出す。ここに出てくるのは、バイクという共通の趣味のもとに集まった、どこか無邪気なアウトローたち。暴力的な存在ではなかったのに、少しずつ変わっていく様子が描かれる。そんなマッチョな話を、ジョディ・カマー演じる女性の視点で語るところが面白い。バーやコインランドリー、こだわりの服装などを再現したビジュアルは、美しく、ノスタルジック。今最も注目のバトラー、ハーディ、カマーは当然ながら、ニコルズ映画常連のシャノンも目を釘付けにする。
ふたりの出会いのシーンは、いかにも(そんなに良くない)ロマンチックコメディ。真剣な恋に発展していくところはまじめな(これまたそんなに良くない)恋愛映画。と思いきや、半分進んだところでようやく本題に。夢のような恋でもこんなことになるのだと見せるために時間をかけたのか?そこはどうあれ、トーンが散らばる上、主人公リリーのティーンの頃のフラッシュバックも多すぎて、全体的にもたつく。都合の良い偶然が多いのも気になる。普通にロマンチックコメディなら受け入れるけれども、本題が深刻だけに信憑性が薄れてしまうのだ。それでもアメリカではヒットしたし、大事な事柄について考えてもらうきっかけになるのであれば文句なし。