略歴: 東京の出版社にて、月刊女性誌の映画担当編集者を務めた後、渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスターのインタビュー、撮影現場レポート、ハリウッド業界コラムなどを、日本の雑誌、新聞、ウェブサイトに寄稿する映画ジャーナリスト。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。
非常に効果的で新鮮なホラー。ショッキングな冒頭で引き込み、後にそこにつなげるやり方もうまいし、何よりエンディング!あれは今年観た中でも最も心に残るラストシーンのひとつと言ってもいいかも。わざわざ怖くて危険なことをティーンがやりたがるというのは自然で納得がいく設定。だが、主人公ミアにはもっと大きなモチベーションがあることが、映画に強い感情を与えていく。静かなシーンでは孤独、悲しみ、トラウマを繊細に表現し、取り憑かれたシーンでは完全に別物のようになってみせるソフィー・ワイルドに思いきり感心。彼女と、この映画で監督デビューを果たしたダニー&マイケル・フィリッポウ兄弟のこれからに大きく期待。
全編を通じてクーパーの並々ならぬ意欲が伝わってくる。監督デビュー作「アリー/スター誕生」でも音楽の才能を見せたが、世界的巨匠になりきるのは別のレベルだ。声をマスターするための特訓も「アリー~」公開前から始めたとのこと。大聖堂での指揮の部分は特に圧巻。人生の違った段階を見せていく上では、特殊メイクアーティストのカズ・ヒロがまたもや素晴らしい仕事ぶりで貢献。モノクロとカラーを使い分け、空想の要素も入れるなど普通の伝記映画と違う作りしたのは、「あなたは作曲家?指揮者?」と聞かれた人物を語るのに適している。だが、その並外れた人生の要素を欲張って盛り込んだせいで肝心の焦点が薄まり、散漫になった感も。
「ハンガー・ゲーム」1作目の64年前の話。オリジナルの4本の映画と共通する登場人物はふたりだけ。過去の映画を見ていなくても入っていけるが、見ていれば「あれはここから始まったのか」などとわかり、より面白い。とりわけトム・ブライスが演じる主人公コリオレーナス。映画を通じて後の姿に少しずつ近づいていく彼の演技はすばらしい。ジェイソン・シュワルツマンも、抜群の演技で笑わせてくれるだけでなく、娯楽イベントとしてハンガー・ゲームが確立していく歴史を見せる。レイチェル・ゼグラーの歌声が聴けるのも魅力。今作の結末からオリジナルの最初までにはいろんなことが起こる余地が残されているので、続編が待たれる。
ディズニーの100周年を祝福するこの映画には、ディズニーの伝統へのオマージュがたっぷり。オリジナルミュージカルであること、星に願いをかけるというテーマ自体がそうだが、風景にも水彩画のようなタッチが取り入れられている。そんな世界に、アリアナ・デボーズが、すばらしい歌声はもちろんのこと、持ち前の元気さとエネルギーを吹き込む。悪役を演じるクリス・パインが歌う「無礼者たちへ」も抜群に楽しい。ディズニー・アニメーションの大ベテラン、クリス・バックと、若手のファウン・ヴィーラスンソーンが共同監督をするというところにも、次世代に引き継ぐというディズニーの昔からの精神が反映されている。
パキスタン(現在)出身のシェカール・カプールが長編映画を監督するのは、なんと2007年の「エリザベス:ゴールデン・エイジ」以来。この新作はライトなタッチの恋愛映画で、これまでの作品とタイプが違うが、主人公のひとりはパキスタン系イギリス人。東洋と西洋の違いというテーマには、パーソナルなものを感じたのだろう。このジャンルではいつもそうであるように、結末は簡単に予測できるが、キャストが魅力的で、彼らの人間関係、相性にも信ぴょう性があり、そこまでのジャーニーを楽しめる。それぞれの文化が持つ愛に対する考え方の違いについて、興味深い論点が挙げつつ、どちらが正しいと決めつけないのも良い。