略歴: 東京の出版社にて、月刊女性誌の映画担当編集者を務めた後、渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスターのインタビュー、撮影現場レポート、ハリウッド業界コラムなどを、日本の雑誌、新聞、ウェブサイトに寄稿する映画ジャーナリスト。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。
今回もモモアはカリスマたっぷりで頑張っている。だが残念なことに、トーンもストーリーもとっ散らかった結果に。コアとなる兄弟で力を合わせる話も、先の予想がつくし、ラストのパトリック・ウィルソンのせりふも陳腐(彼のせいではなく脚本のせい)。アーサー(モモア)のイクメンぶりは愛らしいも、彼と釣り合わず、本当は降板させたかったアンバー・ハードと並べないようにするため、最初のほうはまるでシングルファーザーのよう。ハードの存在意義はアーサーに妻子がいると見せることだけ。アクションはスピードこそあれ緊迫感がなく、色々起きているのに退屈させる。地球温暖化のメッセージの意図はいいので星ひとつおまけ。
大災害によってすべてが破壊されたが、自分が住むマンションだけは無事だった。救助が来ることが期待できず、水や食べ物にも限りがある中、避難させてとやって来る外部の人にどう対応するのか。自分たちさえ良ければ良い?それとも困った時はお互いを助け合うべき?この娯楽パニックスリラーはそんなモラルの問いかけをし、観る人それぞれに答を委ねる。さらに、イ・ビョンホンのキャラクター。突然にしてパワーを与えられたら、自分だったらどうなるか。建物の中は平和とほど遠いのに、タイトルで「ユートピア」とうたうのはなんともブラックなユーモア。脇役の住人たちのキャラクターもよく考えられていて信ぴょう性がある。
J. A. ・バヨナが母国語であるスペイン語で映画を作るのは16年ぶり。飛行機が墜落する瞬間をはじめ、衝撃的なシーンが迫力とリアル感たっぷりに描かれるのは、さすが彼。だが、この映画で一番大切なのは、人々が持つ不屈の精神。生き延びるために人として許されない行為をした彼らの話はセンセーショナルに取り上げられがちだが、バヨナは、いくつもの絶望的な状況に直面し、希望を見つけては裏切られる彼らの姿を丁寧に描いていくことで「その話」になることを避けた。撮影監督ペドロ・ルケのカメラ使いも見事。観ているだけで寒くなるほど現地の過酷さ、恐ろしさをとらえつつ、同時に大自然の美しさと偉大さも感じさせる。
海とそこに住む生物、植物を破壊してはいけないというメッセージを、誠意のある姿勢で伝える映画。じっくり時間をかけて描かれる水中のシーンはとても美しく、せりふを通さなくても、観客はこれを守らなければと感じるはず。それを人生の使命とする母娘は、違うアプローチで挑む。地元の母は海産物の乱獲がなされないよう自主的に監視し、デベロッパーの不動産計画に声を上げて反対。娘は、地元を離れ、海洋生物学者となり、世界的な舞台で目的を果たそうとする。そのどちらも大事なのだ。フラッシュバックで母娘の道のりが語られるため、現在のアビーを演じるミア・ワシコウスカにあまり見せ場がないのが残念。
アメリカでは2020年に公開され、間違いなくその年の個人的ベスト映画の1本となった傑作。開拓時代の西部をこんな形で優しく親密な視点から見つめるのは、まさにケリー・ライカートならでは。男の友情をとても繊細に描いているのも新鮮。名もない男たちにだって、夢はある。そのために彼らがやるのはたしかに間違ったことなのだが、そこにある貧富の差、階級の違いが、彼らに共感させる。主人公クッキーに良い人オーラがたっぷりのジョン・マガロを選んだのは、大成功。ラストは心にじんと響き、いつまでも記憶に残る。映画が現代で始まるのも、寓話的な雰囲気を与える。シンプルで、シンプルで、ヒューマニティにあふれる、美しい作品。